まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

2022-01-01から1年間の記事一覧

『梨泰院クラス』所感

目次 はじめに 『梨泰院クラス』はプラトニック・ラブを描いているのか 悲劇としての『梨泰院クラス』 なぜセロイはスアと結ばれないのか おわりに はじめに Netflixで『梨泰院クラス』(이태원 클라쓰、JTBC、2020年)を観た。陳腐な言い方になるが、面白か…

ヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』覚書(2)

目次 ヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』(承前) 『論考』の叙述様式 〈世界〉とは何か 〈事態〉とは何か 文献 sakiya1989.hatenablog.com ヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』(承前) 『論考』の叙述様式 『論考』は以下の命題から始まっている. 1 …

ヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』覚書(1)

目次 はじめに ヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』 初版のタイトルとラッセルの序文 文献 はじめに 本稿では,20世紀を代表する哲学者であるルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン(Ludwig Josef Johann Wittgenstein, 1889-1951)の主著『論理哲学論考』(…

ヘーゲル『エンツュクロペディー』覚書:「動物有機体」篇(2)

目次 ヘーゲル『哲学的諸学問のエンツュクロペディー要綱』(承前) II「自然哲学」第3部「有機体物理学」C「動物有機体」 〈自己運動〉の偶然性 文献 sakiya1989.hatenablog.com ヘーゲル『哲学的諸学問のエンツュクロペディー要綱』(承前) II「自然哲学…

ベンヤミン「暴力批判論」覚書(1)

目次 はじめに ベンヤミン「暴力批判論」 倫理的諸関係における〈暴力〉 文献 はじめに 以下ではヴァルター・ベンヤミン(Walter Bendix Schoenflies Benjamin, 1892-1940)の「暴力批判論」(Zur Kritik der Gewalt)を読む. ドイツ語の"Gewalt"には,「性…

ヘーゲル『エンツュクロペディー』覚書:「動物有機体」篇(1)

目次 はじめに ヘーゲル『哲学的諸学問のエンツュクロペディー要綱』 II「自然哲学」第3部「有機体物理学」C「動物有機体」 文献 はじめに 本稿ではヘーゲル『哲学的諸学問のエンツュクロペディー要綱』(Encyklopädie der philosophischen Wissenschaften i…

ヘーゲル『法の哲学』覚書:「家族」篇(4)

目次 ヘーゲル『法の哲学』(承前) 第三部「人倫」第一章「家族」(承前) 婚姻における自然性と精神性 文献 sakiya1989.hatenablog.com ヘーゲル『法の哲学』(承前) 第三部「人倫」第一章「家族」(承前) 婚姻における自然性と精神性 第161節 婚姻は,…

読書前ノート(11)小松原織香『当事者は嘘をつく』

小松原織香『当事者は嘘をつく』(筑摩書房、2022年) 目次 小松原織香『当事者は嘘をつく』(筑摩書房、2022年) はじめに 〈性暴力〉とは何か 「刑事司法の枠組み」から外れる〈性暴力〉 「彼」の発言と振る舞いの矛盾 ドーナツの「穴」のような「語り得(…

マルクス『資本論』覚書(22)

目次 マルクス『資本論』(承前) 第一部 資本の生産過程(承前) マルクスと労働価値説 文献 sakiya1989.hatenablog.com マルクス『資本論』(承前) 第一部 資本の生産過程(承前) マルクスと労働価値説 (1)ドイツ語初版 我々は今や価値の実体を知って…

マルクス『資本論』覚書(21)

目次 マルクス『資本論』(承前) 第一部 資本の生産過程(承前) 一商品価値の大きさが,労働生産力と労働量に対してもつ相関関係 文献 sakiya1989.hatenablog.com マルクス『資本論』(承前) 第一部 資本の生産過程(承前) 一商品価値の大きさが,労働生…

不条理な制度には不服従を示そう

唐突に昔の憤りを思い出したので書き綴っておく。 2015年のことである。 私は現在ソフトバンク株式会社で正社員として働いている。が、最初から正社員だったわけではなく、当初は販売契約社員として入社して働いていた。販売契約社員とは3ヶ月更新(当時)で…

読書前ノート(10)ジョルジョ・アガンベン『身体の使用』

ジョルジョ・アガンベン『身体の使用 脱構成的可能態の理論のために』(上村忠男訳、みすず書房、2016年) 筆者が本書を手に取ったのは、少なからずヘーゲル法哲学の第一部「抽象法」の解釈に役立てるためであった。ヘーゲルは次のように述べている。 【§59…

マルクス『資本論』覚書(20)

目次 マルクス『資本論』(承前) 第一部 資本の生産過程(承前) 労働時間の不完全な表現としてのダイヤモンドと金 文献 sakiya1989.hatenablog.com マルクス『資本論』(承前) 第一部 資本の生産過程(承前) 労働時間の不完全な表現としてのダイヤモンド…

マルクス『資本論』覚書(19)

目次 マルクス『資本論』(承前) 第一部 資本の生産過程(承前) 〈労働生産力〉の様々な複合的諸要因 文献 sakiya1989.hatenablog.com マルクス『資本論』(承前) 第一部 資本の生産過程(承前) 〈労働生産力〉の様々な複合的諸要因 (1)ドイツ語初版 …

自民党「日本国憲法改正草案」批判(3)

目次 自民党「日本国憲法改正草案」(承前) 前文(承前) 文献 sakiya1989.hatenablog.com 自民党「日本国憲法改正草案」(承前) 前文(承前) 日本国民は,国と郷土を誇りと気概を持って自らを守り,基本的人権を尊重するとともに,和を尊び,家族や社会…

ヘーゲル『法の哲学』覚書:「家族」篇(3)

目次 ヘーゲル『法の哲学』(承前) 第三部「人倫」第一章「家族」(承前) 「家族」章の構成 文献 sakiya1989.hatenablog.com ヘーゲル『法の哲学』(承前) 第三部「人倫」第一章「家族」(承前) 「家族」章の構成 第160節 家族は以下の三つの面を通じて…

ヘーゲル『法の哲学』覚書:「家族」篇(2)

目次 ヘーゲル『法の哲学』(承前) 第三部「人倫」第一章「家族」(承前) 家族の解体と市民社会への移行の見通し 文献 sakiya1989.hatenablog.com ヘーゲル『法の哲学』(承前) 第三部「人倫」第一章「家族」(承前) 家族の解体と市民社会への移行の見通…

ヘーゲル『法の哲学』覚書:「家族」篇(1)

目次 はじめに ヘーゲル『法の哲学』 第三部「人倫」第一章「家族」 「家族」の規定としての「愛」 文献 はじめに 本稿ではヘーゲル『法の哲学』第三部「人倫」第一章「家族」の読解を試みる. 家族という共同体では様々な諸問題が生じている.それは,例え…

自民党「日本国憲法改正草案」批判(2)

目次 自民党「日本国憲法改正草案」(承前) 前文(承前) 文献 sakiya1989.hatenablog.com 自民党「日本国憲法改正草案」(承前) 前文(承前) 次の第二段落に示されているのは,国際社会において果たすべき「日本国」の役割——自民党がそのように考える限…

自民党「日本国憲法改正草案」批判(1)

目次 はじめに 自民党「日本国憲法改正草案」 前文 「日本国民」の代わりに主体化された「日本国」 反近代的概念としての「日本国」 文献 sakiya1989.hatenablog.com はじめに 以下では,自民党「日本国憲法改正草案」(2012年,以下「改憲草案」と略記する…

憲法改正・統一教会・民主主義

先日射殺された安倍晋三(1954-2022)元首相は,亡くなる5日前に千葉で行った講演の中でも憲法改正(以下,「改憲」と略記)の必要性を力説していた*1.改憲に関して岸田文雄(1957-)現首相は,安倍晋三の改憲についての「思いを受け継ぎ、果たせなかった難…

『共産党宣言』覚書(4)

目次 『共産党宣言』初版(23ページ本)(承前) 第一章 ブルジョアとプロレタリア(承前) 階級対立の単純化という近代市民社会の特徴 文献 sakiya1989.hatenablog.com 『共産党宣言』初版(23ページ本)(承前) 第一章 ブルジョアとプロレタリア(承前) …

ヘーゲル『精神現象学』読書会予習(2)

目次 ヘーゲル『精神現象学』(承前) 精神(承前) 「純粋な事物」としての「朦朧とした織物」 文献 sakiya1989.hatenablog.com ヘーゲル『精神現象学』(承前) 精神(承前) 「純粋な事物」としての「朦朧とした織物」 b 啓蒙の真理 朦朧として,もはや自…

『共産党宣言』覚書(3)

目次 『共産党宣言』初版(23ページ本)(承前) 第一章 ブルジョアとプロレタリア 階級闘争史としての社会史 ツンフト内部闘争 文献 sakiya1989.hatenablog.com 『共産党宣言』初版(23ページ本)(承前) 第一章 ブルジョアとプロレタリア 階級闘争史とし…

『共産党宣言』覚書(2)

目次 『共産党宣言』初版(23ページ本)(承前) 「共産主義の幽霊」というメルヒェンとその事実 文献 sakiya1989.hatenablog.com 『共産党宣言』初版(23ページ本)(承前) 「共産主義の幽霊」というメルヒェンとその事実 『宣言』は主に四つの章から成り…

読書前ノート(9)平野啓一郎『私とは何か——「個人」から「分人」へ』

平野啓一郎『私とは何か——「個人」から「分人」へ』(講談社、2021年) メタバースと〈分人主義〉 メタバース関連書籍で何度か小説家平野啓一郎さんの〈分人主義〉について言及されていたので、本書を手に取ってみた。まずは〈分人〉という捉え方についてみ…

『共産党宣言』覚書(1)

目次 はじめに 『共産党宣言』初版(23ページ本) 『共産党宣言』初版の異本について 文献 はじめに 以下では『共産党宣言』(Manifest der Kommunistischen Partei, 1848,以下『宣言』)の読解を試みる. マルクス『新訳 共産党宣言 初版ブルクハルト版(1…

読書前ノート(8)バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論』

バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論——仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』(技術評論社、2022年) それは参与観察さえ〈超えて〉いる 今年最初で最大の衝撃の書かもしれない。私が本書を手にしたのは、今後のトレンドを示すための社内…

ルソー『社会契約論』(10)

目次 ルソー『社会契約論』(承前) 第一編 第三章 最強者の権利について 第四章 奴隷状態について 第五章 最初の約束につねにさかのぼらなければならないこと 第六章 社会契約について 文献 sakiya1989.hatenablog.com ルソー『社会契約論』(承前) 第一編…

フォイエルバッハ『将来の哲学の根本命題』覚書(3)

目次 フォイエルバッハ『将来の哲学の根本命題』(承前) プロテスタンティズムの理神論 文献 sakiya1989.hatenablog.com フォイエルバッハ『将来の哲学の根本命題』(承前) プロテスタンティズムの理神論 3 しかしながら,プロテスタンティズムは,神それ…