目次
ヘーゲル『哲学的諸学問のエンツュクロペディー要綱』(承前)
II「自然哲学」第3部「有機体物理学」C「動物有機体」
〈自己運動〉の偶然性
(1)初版
第274節
動物には偶然的な自己運動がある.なぜならば,その主体性は,光と火のように,重力〔重さ〕から引きはがされた観念性——自由な時間であるから.すなわち,同時に実在的な外面性から逃れ出たものとして,内的な偶然にしたがってそれ自身が場所へと規定される自由な時間であるから.
(Hegel1817: 185,伊藤訳228頁)
(2)第二版
第351節
動物には偶然的な自己運動がある.なぜならば,その主体性は,光と火のように,重力〔重さ〕から引きはがされた観念性——自由な時間であるから.すなわち,同時に実在的な外面性から逃れ出たものとして,内的な偶然にしたがっておのずからそれ自身が場所へと規定される自由な時間であるから.
(Hegel1827: 332)
(3)第三版
第351節
動物には偶然的な自己運動がある.なぜならば,その主体性は,光〔と火〕のように,重力〔重さ〕から引きはがされた観念性——自由な時間であるから.すなわち,同時に実在的な外面性から逃れ出たものとして,内的な偶然にしたがっておのずからそれ自身が場所へと規定される自由な時間であるから.
(Hegel1830: 360)
ここでヘーゲルは「動物」の特徴の一つとして「偶然的な自己運動」を挙げている.「動物」の「自己運動」が「偶然的」だといわれているのは,「動物」の「主体性」においては,理性を伴った本当の自由意志が行動を規定しているのではなく,行き当たりばったりの衝動や欲求といった自然性に突き動かされて行動するからである.「動物」のこうした行動原理のことを,ヘーゲルは「内的な偶然にしたがってそれ自身が場所へと規定される自由な時間」と表現している.「重力」の代わりに偶然性がその原理である.
ここで「動物」の「主体性」が「光と火のように」と表現されているのは,それらが「重力」を持たない存在だからである*1.「光と火」はその光源から瞬間的に四方八方を照らすとき,たしかにそれは「実在的な外面性」という力学的な物理法則を無視しているように見える.
(つづく)
文献
- Hegel, 1817, Encyklopädie der philosophischen Wissenschaften im Grundrisse, Heidelberg. (University of California, 2007)
- Hegel, 1820, Naturrecht und Staatswissenschaft im Grundrisse, Grundlinien der Philosophie des Rechts, Berlin. (University of Oxford, 2007)
- Hegel, 1827, Encyklopädie der philosophischen Wissenschaften im Grundrisse, Heidelberg. (Biblioteca statale di Cremona, 2018)
- Hegel, 1830, Encyklopädie der philosophischen Wissenschaften im Grundrisse, Heidelberg. (Harvard University, 2008)
- ヘーゲル 2019「ハイデルベルク・エンツュクロペディー(1817) 付:補遺」池松辰男・伊藤功・大西正人・岡崎龍・大河内泰樹・川瀬和也・小島優子・真田美沙訳,山口誠一責任編集『ヘーゲル全集 第11巻』知泉書館.
*1:光子の質量はゼロである