まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

2022-01-01から1年間の記事一覧

2022年に書いた記事を振り返る

目次 はじめに 2022年に書いた記事まとめ(全80本) 1月(ヘーゲル世界史、バウムガルテン美学、読書前ノート) 2月(読書前ノート、ヘーゲル抽象法) 3月(数学、読書前ノート、ヘーゲル世界史) 4月(執筆なし) 5月(フォイエルバッハ『将来の哲学の根本…

「産婆術」というレトリックに対する疑念

ソクラテス これに対して、わたしがおこなっている助産の技術には、産婆たちがかかわる全部のことが入ってくるが、ただし婦人をでなくて男性を介助すること、および、かれらの魂が生むのを見守るのであって、身体が産むのを見守るのではないこと、これらの点…

『リコリス・リコイル』から組織内の不条理な処分について考える

はじめに 今回は、TVアニメ『リコリス・リコイル Lycoris Recoil』(足立慎吾、アサウラ、いみぎむる、A-1 Pictures、2022年)から組織内の不条理な処分について考えたいと思う。 『リコリス・リコイル』の主人公は錦木千束(にしきぎちさと、以下「千束」)…

読書前ノート(15)トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』

トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』(加藤節訳、筑摩書房、2022年) 完訳として刷新された『リヴァイアサン』 加藤節先生にはすでにアーネスト・ゲルナー『民族とナショナリズム』(岩波書店、2000年)やジョン・ロック『完訳 統治二論』(岩波書店、2014年…

読書前ノート(14)山本貴光(著)・橋本麻里(編)『世界を変えた書物』

山本貴光(著)・橋本麻里(編)『世界を変えた書物』(小学館、2022年) その時代の豊穣な内容を綴じ込めた原著初版を観覧する こんなに面白い本があるだろうか。本書は科学技術に関する重要な著書の図録である。高校の物理・化学の授業で聞いたような名前…

日銀「イールドカーブ・コントロールの運用の見直し」

イールドカーブ・コントロールの運用の見直し 日銀が「イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用の見直し」を発表した*1。 (日銀HP「イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用の見直し」2022年12月20日) 長期金利の変動幅拡大(±0.25%→±0.5%)に関して…

Reading Hobbes “Leviathan”. No.2.

Contents Hobbes, Leviathan, 1651. Part I. Of Man. Chap. I. Of Sense. (continued.) Bibliography sakiya1989.hatenablog.com Hobbes, Leviathan, 1651. Part I. Of Man. Chap. I. Of Sense. (continued.) (Hobbes 1651: 3) First of all, Hobbes examine…

Reading Hobbes “Leviathan”. No.1.

Contents Introduction Hobbes, Leviathan, 1651. Part I. Of Man. Chap. I. Of Sense. Bibliography Introduction How should Hobbes' Leviathan be read today? I would draw the auxiliary line of 'anatomy' there. An interesting aspect of Hobbes' Le…

ヘーゲルと医学——解剖学・有機体・病理学(2)

目次 ヘーゲルの「病気」概念:孤立と自立 文献 sakiya1989.hatenablog.com ヘーゲルの「病気」概念:孤立と自立 本稿では、ヘーゲルがいわゆる『法哲学』で政治社会を有機体に擬えて論じた次のパラグラフについて考察してみたい。少し長くなるが前後の文脈…

フーコー「社会医学の誕生」覚書(3)

目次 フーコー「社会医学の誕生」(承前) 序(承前) 社会医学の三つの源泉:ドイツ国家医学・フランス都市医学・イギリス労働力医学 文献 sakiya1989.hatenablog.com フーコー「社会医学の誕生」(承前) 序(承前) 社会医学の三つの源泉:ドイツ国家医学…

日曜歴史家フィリップ・アリエスと〈精神性の歴史〉

フィリップ・アリエス(Philippe Ariès, 1914-1984)とは何者なのか。彼は歴史家であるが、大学の先生ではなく、「日曜歴史家 Historien du dimanche」を自称していた。私は(荒木優太さん(1987-)に倣い)在野研究者を自称しているが、アリエスもまた在野…

ジョン・ロック『統治二論』覚書(1)

目次 はじめに 文献 はじめに 本稿ではジョン・ロック『統治二論』(John Locke, Two Treatises of Governmen, 1690)の読解を試みる。 彼の著作に関しては、私はさほど興味を持ってこなかったものの、あることがきっかけで突然読んでみたくなった。きっかけ…

ジャック・デリダ『弔鐘』覚書(8)

目次 ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 〈伝説〉としてのヘーゲル家族論 文献 sakiya1989.hatenablog.com ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 〈伝説〉としてのヘーゲル家族論 Ceci est ‒‒ une légende. Non pas une fabl…

フーコー「社会医学の誕生」覚書(2)

目次 フーコー「社会医学の誕生」(承前) 序(承前) スペイン語の講演記録 ロストウの「テイク・オフ」 文献 sakiya1989.hatenablog.com フーコー「社会医学の誕生」(承前) 序(承前) スペイン語の講演記録 さて、あらためて冒頭から読んでいきましょう…

読書前ノート(13)物江潤『デマ・陰謀論・カルト スマホ教という宗教』

物江潤『デマ・陰謀論・カルト スマホ教という宗教』(新潮社、2022年) 陰謀論と免疫反応 最近「陰謀論」をテーマにした本を何冊か買ってきた。今更ながら「陰謀論」について考えてみようと思い立ったのは、私がついに陰謀論者と対話する機会があったからで…

フーコー「社会医学の誕生」覚書(1)

目次 はじめに フーコー「社会医学の誕生」 序 資本主義社会における身体と医学 文献 はじめに 以下ではフーコー「社会医学の誕生」(Michel Foucault, El nacimiento de la medicina social, 1977)を読みます。このテクストを読むことになったきっかけは、…

ジャック・デリダ『弔鐘』覚書(7)

目次 ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 ヘーゲルの署名と〈絶対知〉のコルプス 「残余の思考」と「思考するための残余」 (右)ジュネ欄 交差=一致する、残余の二つの機能 文献 sakiya1989.hatenablog.com ジャック・デリダ『弔鐘』(承…

ヘーゲルと医学——解剖学・有機体・病理学(1)

目次 はじめに ヘーゲルと医学 ヘーゲルと解剖学 ホッブズと解剖生理学 文献 「自分自身が医者であり、しかも、きわめて思索的な医者でもあるケネー氏は、政治体についても同じ種類の理解を心に思い浮かべ、それは、一定の厳密な養生法——完全な自由と完全な…

パワハラ対策としてのアジール

かれこれ10年以上前になるが、「アジール」という言葉を私が知ったのは、網野善彦『無縁・公界・楽』(平凡社ライブラリー、1996年)を学生の頃に読んだときだった。アジール(Asyl)とは、概して「権力の及ばない圏域」を意味する。「権力 Gewalt」とはすな…

ジャック・デリダ『弔鐘』覚書(6)

目次 ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 教育と署名との両立不可能性 (右)ジュネ欄 残余としての僅かなもの 文献 sakiya1989.hatenablog.com ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 教育と署名との両立不可能性 On ne sait …

ジャック・デリダ「署名 出来事 コンテクスト」覚書(1)

目次 はじめに ジャック・デリダ「署名 出来事 コンテクスト」 文献 はじめに ジャック・デリダ(Jacques Derrida, 1930-2004)の有名なテクストに「署名 出来事 コンテクスト」(signature événement contexte, 1971)がある。このテクストは、1971年にモン…

ジャック・デリダ『弔鐘』覚書(5)

目次 ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 略号とコード 「無原罪懐胎」の恣意性 速記法のアンビバレントな両側面 文献 sakiya1989.hatenablog.com ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 略号とコード Sa sera désormais le si…

読書前ノート(12)國分功一郎『スピノザ——読む人の肖像』

目次 國分功一郎『スピノザ——読む人の肖像』(岩波書店、2022年) 「……を私は……と解する」という定義の仕方は、ただ単に「名目的な」だけなのか 國分功一郎『スピノザ——読む人の肖像』(岩波書店、2022年) 「……を私は……と解する」という定義の仕方は、ただ…

Netflixが没落する日

はじめに 巷で人気の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(サンライズ、2022年)を筆者は毎週Amazonプライムビデオで視聴している。同作品が10月20日(木)よりNetflixでも配信されるようになった。そこで、ふとそれぞれのストリーミングサービスで『水星の魔女…

ジャック・デリダ『弔鐘』覚書(4)

目次 ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 〈絶対知〉とそのテクスト (右)ジュネ欄 〈残ったもの〉という計算不可能なものの計算可能性 文献 sakiya1989.hatenablog.com ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 〈絶対知〉とそ…

ジャック・デリダ『弔鐘』覚書(3)

目次 ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 「鷲(エグル)」に擬せられるヘーゲル (右)ジュネ欄 包摂関係にある不均等な二つの欄 文献 sakiya1989.hatenablog.com ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 「鷲(エグル)」に擬…

ジャック・デリダ『弔鐘』覚書(2)

目次 ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 デリダの問い (右)ジュネ欄 〈残余〉とは何か 文献 sakiya1989.hatenablog.com ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 デリダの問い Qui, lui? 誰か、彼とは? (Derrida1974: 7,鵜…

ジャック・デリダ『弔鐘』覚書(1)

目次 はじめに ジャック・デリダ『弔鐘』 (左)ヘーゲル欄 ヘーゲルから残ったもの (右)ジュネ欄 ジュネから残ったもの 文献 sakiya1989.hatenablog.com I read Glas as an autobiography, "about" Hegel, Marx, Nietzsche, Freud, Genet et al. ——Gayatr…

「「当事者は嘘をつく」の書評への感想」へのリプライ(2)

目次 はじめに 〈赦す〉という言葉で私は何を述べようとしたのか manaasamiさんの疑問に対して おわりに 文献 はじめに 私は「読書前ノート(11)」(2022年8月31日)で小松原織香『当事者は嘘をつく』(筑摩書房、2022年)を取り上げて書評した。その書評…

「「当事者は嘘をつく」の書評への感想」へのリプライ

目次 はじめに 語ることの難しさ 書評後に考えたこと 〈赦し〉の文脈 はじめに 先日私は「読書前ノート(11)」で小松原織香『当事者は嘘をつく』(筑摩書房、2022年)の書評を書いた。この書評への感想が届いた。 manaasami.hatenablog.com はてなブログ…