まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

読書前ノート(13)物江潤『デマ・陰謀論・カルト スマホ教という宗教』

物江潤『デマ・陰謀論・カルト スマホ教という宗教』(新潮社、2022年)

陰謀論と免疫反応

 最近「陰謀論」をテーマにした本を何冊か買ってきた。今更ながら「陰謀論」について考えてみようと思い立ったのは、私がついに陰謀論者と対話する機会があったからである。勿論、その人を「陰謀論者」と規定しているのは私の側だけであって、本人が自分の言説を「陰謀論」だと主張しているわけではない。

 ここで立ち止まって考えなければならないのは、実際に「陰謀論」に陥るときに、その人に何が起こっているのか、ということである。「陰謀論なんて馬鹿げている」と笑い飛ばすことは容易であるように見えるが、実はそうではない。陰謀論者のように見える人から見れば、他人は皆「陰謀論」に毒されているように見えるかもしれない。座標系の原点をどこに取るかによって、その人の主張の位置付けは反転しうる。したがって、現に我々が陰謀論に陥っていないと主張することは容易ではない。

 昨今の陰謀論の典型的なものに「反ワクチン」がある。「コロナはただの風邪」というものから、「ワクチンを接種すると身体が5Gに接続するようになる」等と奇天烈な主張が繰り返されている。ワクチン接種は思いもよらないアナフィラキシー反応(anaphylaxis)を引き起こす可能性もあるので、私はワクチンが万能だと主張するつもりはないが、それでもワクチンは人類の病気の克服において欠かせない役割を果たしてきた。

 「陰謀論」に気触れるのも、ある種の免疫応答のようなものではないだろうか。大人になるまでインターネットに触れたこともない人間が、初めて店頭でスマホを買ってきてTwitterやインターネットニュースの通知から雑多な情報を受容するとする。ほとんどの通知はわざと目を惹くものであったり、人間の欲望を喚起するものであったりする。BPOによる制約を受けないインターネットというイデオロギー装置はマスコミのそれを容易く凌駕するが、そうした情報に一般の人々が初めて触れることとなれば、知らぬ間に陰謀論に毒されることもわけないと思う。