まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

読書メモ

読書前ノート(40)ジョン・ダワー『容赦なき戦争』/『敗北を抱きしめて』

目次 ジョン・W. ダワー(猿谷要監修、斎藤元一訳)『容赦なき戦争 太平洋戦争における人種差別』平凡社ライブラリー、2001年。 ジョン・ダワー(三浦陽一・高杉忠明訳)『増補版 敗北を抱きしめて』岩波書店、2004年。 世俗的・通俗的な「テキスト」へのこ…

読書前ノート(39)日本ヘーゲル学会編『ヘーゲル哲学研究 第29号 2023』

目次 日本ヘーゲル学会編『ヘーゲル哲学研究 第29号 2023』(現代思潮新社、2023年) 加藤尚武「科学と哲学の断絶」 真田美沙「ヤコービ哲学における学的証明とその労働に関する批判についての考察——ヘーゲルのヤコービ批判の再検証のために——」 日本ヘーゲ…

読書前ノート(38)ニッコロ・マキァヴェッリ『ディスコルシ 「ローマ史」論』

ニッコロ・マキァヴェッリ『ディスコルシ 「ローマ史」論』(永井三明訳、筑摩書房、2011年) 歴史に学ぶことの実践 これほどまでに外交官としての彼の経験が生かされている書籍があるだろうか。リウィウスの『ローマ史』を参照しているとはいえ、その筆致は…

読書前ノート(37)カルロ・ギンズブルグ『それでも。マキァヴェッリ、パスカル』

カルロ・ギンズブルグ『それでも。マキァヴェッリ、パスカル』(上村忠男訳、みすず書房、2020年) 「それでも」の〈逆説〉 従来のマキァヴェッリ研究では「ヴィルトゥ virtù」や「フォルトゥーナ fortuna」という概念が鍵句として参照されてきた。本書の著…

読書前ノート(36)伊藤 邦武/山内 志朗/中島 隆博/納富 信留(責任編集)『世界哲学史』

伊藤 邦武/山内 志朗/中島 隆博/納富 信留(責任編集)『世界哲学史』(筑摩書房、2020年) 「世界哲学史」という新たな試み 「世界哲学史」とは聞きなれない言葉である。「哲学史」に「世界」がかかっているが、この「世界」は形容詞であろうか。形容詞…

読書前ノート(35)マルセル・モース『贈与論 他二篇』

マルセル・モース『贈与論 他二篇』(森山工訳、岩波書店、2014年) 純粋な「贈与」と不純な「贈与」 私の仕事は「販売」なのだが、「販売 sales」と「贈与 don(仏), gift(英)」とのあいだには、少なからぬ隔たりがある。企業は「ノベルティ(販促品)」と称…

読書前ノート(34)林要『温かいテクノロジー AIの見え方が変わる 人類のこれからが知れる 22世紀への知的冒険』

林要『温かいテクノロジー AIの見え方が変わる 人類のこれからが知れる 22世紀への知的冒険』(ライツ社、2023年) ロボットとメンタルケア 著者は、かつてPepperの開発主任で知られる林要(1973-)氏である。林氏はPepper開発後に起業し、本書の表紙のイラ…

読書前ノート(33)クリス・ミラー『半導体戦争——世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』

クリス・ミラー『半導体戦争——世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』(ダイヤモンド社、2023年) 曖昧な「地政学 Geopolitik」の定義をめぐる重要な要素の一つに「資源」の問題がある。これまで石油エネルギーに関して資源ナショナリズムの問題が議…

読書前ノート(32)岸政彦/梶谷懐編著『所有とは何か:ヒト・社会・資本主義の根源』

岸政彦/梶谷懐編著『所有とは何か:ヒト・社会・資本主義の根源』(中央公論新社、2023年) 読書前ノート(31)で坂上孝『プルードンの社会革命論』を取り上げた際に「所有」について現代的に再考する必要があるのではないかと述べたが、まさしくそれを行…

読書前ノート(31)坂上孝『プルードンの社会革命論』

目次 坂上孝『プルードンの社会革命論』(平凡社、2023年) フランス社会主義は「政治」革命ではない 生い立ち 所有論 産業組織論 国家論 坂上孝『プルードンの社会革命論』(平凡社、2023年) フランス社会主義は「政治」革命ではない 阪上孝『フランス社会…

読書前ノート(30)小冊子『熱風』2023年7月号

目次 小冊子『熱風』2023年7月号 無料と侮るなかれ 小冊子『熱風』2023年7月号 無料と侮るなかれ 書店で会計を済ませようとしたらこれがフリーペーパーとして置いてあったことに気づいた。『君たちはどう生きるか』(宮﨑駿監督、2023年)が絶賛公開中のスタ…

読書前ノート(29)稲岡大志/森功次/長門裕介/朱喜哲『世界最先端の研究が教えるすごい哲学』

目次 稲岡大志/森功次/長門裕介/朱喜哲『世界最先端の研究が教えるすごい哲学』(総合法令出版、2022年) すごくない哲学 タウマゼインとエウレカ——「すごい哲学」とは何か 稲岡大志/森功次/長門裕介/朱喜哲『世界最先端の研究が教えるすごい哲学』(…

読書前ノート(28)松永博樹・伊藤学『P/Lだけじゃない事業ポートフォリオ改革 ROIC超入門』

松永博樹・伊藤学『P/Lだけじゃない事業ポートフォリオ改革 ROIC超入門』(日本能率協会マネジメントセンター、2021年) ROIC(ロイック)とは「投下資本利益率 Return On Invested Capital」のことであり、簡単に言えば「投下資本 Invested Capital」に対す…

読書前ノート(27)志村真幸『未完の天才 南方熊楠』

志村真幸『未完の天才 南方熊楠』(講談社、2023年) 通勤中に読んでいたが面白くて仕方がない。熊楠は抜粋ノートを作っていた。子どもの頃から大量に。マルクスと同じように。熊楠は対訳本を用いて様々な言語を学んでいた。酒場のカウンターで聴き耳をして…

読書前ノート(26)石原真人『自分でパパッとできる事業計画書』

石原真人『自分でパパッとできる事業計画書』(祥伝社、2014年) 事業計画書を書こうと思っている。起業するためではない。自チームを一つの架空の会社(fictive company)として運用していく姿勢が収益体質の改善を図るのに有益ではないかと考えたからだ。…

読書前ノート(25)田尻望『付加価値のつくりかた』

田尻望『付加価値のつくりかた』(かんき出版、2022年) あっという間に今年も半年が過ぎた。6月も気づけば下旬。もう直ぐボーナスの支給日である。仕事にかまけてブログに書くことも少なくなった。仕事ばかりしている。休日に趣味の読書よりも仕事のための…

読書前ノート(24)津野香奈美『パワハラ上司を科学する』

津野香奈美『パワハラ上司を科学する』(筑摩書房、2023年) 本書は10年にわたりパワハラを研究してきた著者によって書かれた入門書である。「科学する」のタイトル通り、パワハラについて具体的な数値データに基づいて分析結果が示されている。著者がパワハ…

読書前ノート(23)大塚ひかり『ヤバいBL日本史』

大塚ひかり『ヤバいBL日本史』(祥伝社、2023年) 〈性政治〉の誕生 本書はBL(ボーイズラブ)の観点から日本史を整理するという大胆な試みを行っている。著者の大塚ひかりさんは、古典の内容を的確に捉え、現代の言葉で表現することに長けており、すでにい…

読書前ノート(22)濱口桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何か——正社員体制の矛盾と転換』

濱口桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何か——正社員体制の矛盾と転換』(岩波書店、2021年) 昨今聞かれるようになった「ジョブ型雇用」という用語を生み出したのは、本書の著者である濱口桂一郎(1958-)だという。誤解を恐れず言うならば、日系企業の「メンバ…

読書前ノート(21)斎藤環『100分de名著2022年12月 中井久夫スペシャル 』

斎藤環『100分de名著2022年12月 中井久夫スペシャル 』(NHK出版、2022年) 目の前の人間を尊重する精神医学 中井久夫はいわゆる「DSM-5」に依拠する普遍症候群の精神医学一辺倒ではなく、「個人症候群」というスタンスに基づいて個々の患者に寄り添うという…

読書前ノート(20)A・S・バーウィッチ『においが心を動かす——ヒトは嗅覚の動物である』

A・S・バーウィッチ『においが心を動かす——ヒトは嗅覚の動物である』(太田直子訳、河出書房新社、2021年) 「におい」を忘れずに哲学できるか 「におい」という存在をすっかり忘れていた。このことに気がついたのは、昨日ルミネの化粧品売り場を通りかかっ…

読書前ノート(19)アントワーヌ・アルノー/ピエール・ニコル『ポール・ロワイヤル論理学』

アントワーヌ・アルノー/ピエール・ニコル『ポール・ロワイヤル論理学』(山田弘明・小沢明也訳、法政大学出版局、2021年) 「ロジック」をどう教えるか 4月に入り、私にも社内異動があり、部下は2人から8人へ増えた。——増えすぎじゃないかー?——増えた部下…

読書前ノート(18)藤原辰史『植物考』

藤原辰史『植物考』(生きのびるブックス、2022年) 「植物性」とは何か 先日仕事でトラックを待っていたら、予定の時刻になってもトラックが到着せず、ドライバーから遅延の連絡もなかったので、ただひたすらボーッと景色を眺めていた。その際に、一つの植…

読書前ノート(17)D. F. シュトラウス『イエスの生涯』

D. F. シュトラウス『イエスの生涯』(岩波哲男訳、教文館、1996年) ヘーゲル左派運動はここから始まった ドイツの宗教批判は本書から始まり、フォイエルバッハやバウアー、マルクスへ影響を与えた。著者のダーフィト・シュトラウス(David Friedrich Strau…

読書前ノート(16)佐藤貴史『ドイツ・ユダヤ思想の光芒』

佐藤貴史『ドイツ・ユダヤ思想の光芒』(岩波書店、2015年) 20世紀ドイツのユダヤ思想 本書では、主に20世紀のドイツ・ユダヤ人思想家たち——ヘルマン・コーエン(Hermann Cohen, 1842-1918)、マルティン・ブーバー(Martin Buber, 1878-1965)、ゲルショム…

読書前ノート(15)トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』

トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』(加藤節訳、筑摩書房、2022年) 完訳として刷新された『リヴァイアサン』 加藤節先生にはすでにアーネスト・ゲルナー『民族とナショナリズム』(岩波書店、2000年)やジョン・ロック『完訳 統治二論』(岩波書店、2014年…

読書前ノート(14)山本貴光(著)・橋本麻里(編)『世界を変えた書物』

山本貴光(著)・橋本麻里(編)『世界を変えた書物』(小学館、2022年) その時代の豊穣な内容を綴じ込めた原著初版を観覧する こんなに面白い本があるだろうか。本書は科学技術に関する重要な著書の図録である。高校の物理・化学の授業で聞いたような名前…

読書前ノート(13)物江潤『デマ・陰謀論・カルト スマホ教という宗教』

物江潤『デマ・陰謀論・カルト スマホ教という宗教』(新潮社、2022年) 陰謀論と免疫反応 最近「陰謀論」をテーマにした本を何冊か買ってきた。今更ながら「陰謀論」について考えてみようと思い立ったのは、私がついに陰謀論者と対話する機会があったからで…

ジャック・デリダ「署名 出来事 コンテクスト」覚書(1)

目次 はじめに ジャック・デリダ「署名 出来事 コンテクスト」 文献 はじめに ジャック・デリダ(Jacques Derrida, 1930-2004)の有名なテクストに「署名 出来事 コンテクスト」(signature événement contexte, 1971)がある。このテクストは、1971年にモン…

読書前ノート(12)國分功一郎『スピノザ——読む人の肖像』

目次 國分功一郎『スピノザ——読む人の肖像』(岩波書店、2022年) 「……を私は……と解する」という定義の仕方は、ただ単に「名目的な」だけなのか 國分功一郎『スピノザ——読む人の肖像』(岩波書店、2022年) 「……を私は……と解する」という定義の仕方は、ただ…