濱口桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何か——正社員体制の矛盾と転換』(岩波書店、2021年)
昨今聞かれるようになった「ジョブ型雇用」という用語を生み出したのは、本書の著者である濱口桂一郎(1958-)だという。誤解を恐れず言うならば、日系企業の「メンバーシップ型雇用」に対して、欧米企業の「ジョブ型雇用」という概念を著者は示している。だが、昨今の「ジョブ型雇用」に纏わる議論は、著者の立場からすると誤解に満ち溢れているともいえ、だからこそ本書が書かれるきっかけとなった。
良くも悪くも筆者の場合はユニクロとソフトバンクでしか働いたことがない為なのか、「ジョブ型雇用」「メンバーシップ型雇用」と言われても「何が問題なのか」がいまいち実感としてはピンとこない。いわゆる「JTC」と揶揄される企業では「メンバーシップ型雇用」が一般的なのだろうか。
筆者の感じる問題点としては、日系企業の職務が身分制社会になっていないかという点である。いわゆる総合職に近い「メンバーシップ型雇用」の方が、専門職に近い「ジョブ型雇用」よりも身分が高いように感じる。企業内の身分制社会は給与体系に反映されるとともに、上層と下層との間には、基本的には乗り越え難い壁があり、それぞれ異なった「界」(ブルデュー)を形成している。それは慣習的に形成された第二の自然であるから、そういう実態を無視して「メンバーシップ型雇用」「ジョブ型雇用」などと区別したところで、誰の利益になるのか皆目見当がつかない。