まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

『葬送のフリーレン』における〈尊さ〉

『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人・アベツカサ、小学館

 『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人・アベツカサ、小学館)が人気を博している。

 なぜ人は『葬送のフリーレン』に心惹かれるのか。『葬送のフリーレン』の核心は何であるか。この点について筆者は陳腐な言葉で語ることしかできない。『葬送のフリーレン』を通じて読者・視聴者が体験するであろう心揺さぶられる〈尊い〉感情は、容易く文字にすることを許さないほどに儚く脆いからである。

 それでも誤解を恐れずに言うと、『葬送のフリーレン』とは、いわば未来への配慮が描かれた追憶の物語である。主人公であるフリーレンは、かつて勇者一行(ヒンメル、ハイター、アイゼンという仲間たち)とともに魔王を退治した。それから80年以上の時を経た現在のフリーレンは、フェルンやシュタルクらとともに旅する中で、勇者一行の追憶に想いを馳せるのだが、その追憶の中で描かれるのは、過去のキャラクターたちが未来のフリーレンへと向ける配慮の眼差しなのである。なぜそれが〈尊い〉ものとして人々の眼に映るのかといえば、ヒンメルやハイターをはじめとする人間の寿命を超えてなおそこに込められた想いが、フェルンやシュタルクといった次世代の人々の時代に受け継がれ、実現されているからである。