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マルクス『資本論』覚書(26)

目次

sakiya1989.hatenablog.com

マルクス資本論』(承前)

第一部 資本の生産過程(承前)

有用労働は合目的的な生産活動か

(1)ドイツ語初版

 上着は,ある特殊な欲望を満足させる使用価値である.それを生産するためには,ある特定種類の合目的的な生産的活動が必要である.この活動は,その目的,作業様式,対象,手段,および結果に従って規定されている.このようにその〔労働の〕有用性が,その〔労働の〕生産物の使用価値のうちに,あるいはその〔労働の〕生産物は一つの使用価値であるということのうちに表現される労働を,ここでは単純化のために,略して有用労働と呼ぶ.この観点のもとでは,労働はつねに,その目的としてもたらされる有用効果との関連において考察される.

(Marx1867: 7)

(2)ドイツ語第二版

 上着は,ある特殊な欲望を満足させる使用価値である.それを生産するためには,一定種類の生産的活動が必要である.この活動は,その目的,作業様式,対象,手段,および結果によって規定されている.このようにその有用性がその生産物の使用価値のうちに,あるいはその生産物が使用価値であるということのうちに表現される労働を,われわれは簡単に有用労働と呼ぶ.この観点のもとでは,労働はつねにその有用効果に関連して考察される.

(Marx1872a: 16)

(3)フランス語版

(Marx1872b: 16)

(4)ドイツ語第三版

 上着は,ある特殊な欲望を満足させる使用価値である.それを生産するためには,一定種類の生産的活動が必要である.この活動は,その目的,作業様式,対象,手段,および結果によって規定されている.このようにその有用性がその生産物の使用価値のうちに,あるいはその生産物が使用価値であるということのうちに表現される労働を,われわれは簡単に有用労働と呼ぶ.この観点のもとでは,労働はつねにその有用効果に関連して考察される.

(Marx1883: 8,『資本論①』83頁,訳は改めた)

このパラグラフで「有用性 Nützlichkeit」という言葉が出てくるが,この「有用性」は,労働生産物がもっている使用価値それ自体の「有用性」のことではなく,生産物に使用価値をもたらすという点において労働それ自体がもつ「有用性」である.したがって,自分自身の使用価値であれ社会的使用価値であれ,生産物に使用価値をもたらさない労働は「有用労働」とは見做されないことになる.

 さて,ここではドイツ語初版だけにみられる特徴として,生産的活動すなわち労働が合目的性(Zweckmäßigkeit)という観点から言及されている.マルクスが初版において,生産物に使用価値をもたらす「特定種類の合目的的な有用労働」と述べる際に念頭にあったのは,ヘーゲルが『法の哲学』で述べているような職人の熟練労働ではなかろうか.実際,ヘーゲルは『法の哲学』第三部「人倫」第二章「市民社会」b「労働の様式」において,「労働」を「価値と合目的性」の観点から次のように述べている.

 第196節

 もろもろの特殊化された欲求にふさわしく,同様に特殊化された手段をしつらえたり,獲得したりする媒介作用が,労働である.労働は,自然から直接にあたえられる材料を,きわめて多様な過程を通して,これらの種々の目的に合うように細別化することである.ところで,この形成が手段に価値と合目的性をあたえるのであり,その結果として,人間はその消費において,主として人間によって生みだされた産物に関わるのであり,人間が消費するのは,このような人間の努力〔の成果〕なのである.

(Hegel1820: 198,上妻ほか訳(下)97頁)

マルクスはドイツ語第二版ではこの合目的性の観点を文章から削除しているが,しかしだからといってマルクスが有用労働から合目的性の観点を退けたことにはならない.というのも,ドイツ語第二版においても,少し先のパラグラフでは「こうして,どの商品の使用価値にも,一定の合目的的な生産活動または有用労働が含まれているということがわかった」(『資本論①』84頁)と述べているからである.

(つづく)

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