カルロ・ギンズブルグ『それでも。マキァヴェッリ、パスカル』(上村忠男訳、みすず書房、2020年)
「それでも」の〈逆説〉
従来のマキァヴェッリ研究では「ヴィルトゥ virtù」や「フォルトゥーナ fortuna」という概念が鍵句として参照されてきた。本書の著者であるカルロ・ギンズブルグ(Carlo Ginzburg, 1939-)によれば、たしかにそれらの概念も大事だが、それだけではマキァヴェッリ研究としては不十分であるという。
ギンズブルグは、マキァヴェッリがしばしば用いる「それでも」に着目する。「それでも」の原語は«nondimanco»であり、英語で言うと‘nonetheless’である。これは「にもかかわらず」と前置きすることによって、後続の節にある種の〈逆説 paradox〉を示す接続詞である。「それでも nondimanco」という接続詞の後ろには、定則に対する例外が示される。「それでも」をしばしば用いるマキァヴェッリのこのような思考様式を、ギンズブルグはカール・シュミットの「例外状態」(『政治神学』)やパスカルの「奇蹟」と接続する。
本書では、最新の研究を踏まえた上でいくつもの〈逆説〉が示されている。つまり、ギンズブルグが「それでも nondimanco」をモチーフに本書で試みたのは、ある種の逆説、パラドックスを示すことだったといえる。マキァヴェッリとパスカルという、一見すると繋がりがなさそうな思想家に結節点を見出しているのは、まだ序の口に過ぎない。