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ライプニッツ『モナドロジー』覚書(5)

目次

sakiya1989.hatenablog.com

ライプニッツモナドジー』(承前)

ライプニッツスピノザ

(1)エルトマン版(1839年

(2)ゲルハルト版(1885年)

 しかも、各モナドは他の各モナドと異なっているはずだ。じっさい自然のなかでは、二つの存在が互いにまったく同じようであってそこに内的差異すなわち内在的規定に基づく差異を見いだせない、ということは決してない。

(『モナドジー』§9)

ここでライプニッツスピノザの「実体的差異」の思想に範を得ている*1

 またライプニッツのいう「モナド」は外的原因に影響されない。

(1)エルトマン版(1839年

(2)ゲルハルト版(1885年)

 以上に述べたことから、モモナの自然的変化は内的原理から来ることがわかる。外的原因はモナドの内部に作用することができないからである。

(『モナドジー』§11)

ライプニッツのいう「モナド」は、スピノザのいう「実体」に似ている。というのは、スピノザのいう「実体」もまた、ライプニッツの「モナド」と同様に、外的原因に影響されないからである*2

 ライプニッツのいう各モナドの差異は、スピノザの実体的差異で理解可能である。ライプニッツの単純実体における「多」の概念もスピノザの実体的変状で理解可能である。ライプニッツにあって、スピノザにあってはまだ叙述しえなかった思想といえば、「微分」によって表象されるような微細な連続的変化の観念かもしれない。

微細な変化、一と多

 以下の一節に、微分にもつながるライプニッツ思想の特徴が凝縮されている。

(1)エルトマン版(1839年

(2)ゲルハルト版(1885年)

 しかしまた、変化の原理のほかに、変化するものの細部があり、それが単純な実体の、いわば特殊化と多様性を与えているにちがいない。

(『モナドジー』§12)

ここでライプニッツが強調しているのは、「変化」というのが一瞬にして別のものになる断続的な変化ではなく、§10で先に述べられていたように、変化が連続的であるがゆえにその連続性のうちなる無限のうちに「変化するものの細部」が横たわっているという点である。このことをライプニッツは「多」と言い換えている。

(1)エルトマン版(1839年

(2)ゲルハルト版(1885年)

 この細部は、一なるもの、すなわち単純なもののなかに、多を含んでいるはずだ。じっさいすべての自然的変化は徐々になされるから、どこかが変化してもどこかは変わらないままである。したがって、単純な実体のなかには、部分はないけれども、いろいろな変状や関係があるにちがいない。

(『モナドジー』§13)

ライプニッツのいう「多」の概念もまた、スピノザのいう実体の「変状」という概念の影響を受けているように思われる。

 さて、こうした連続的変化のうちに見られる「多」の表現形態のことをライプニッツは「表象」と呼んでいる。

(1)エルトマン版(1839年

(2)ゲルハルト版(1885年)

 一なるもの、すなわち単純実体のなかで、多を含み、これを表現する推移的状態がいわゆる表象にほかならない。これは意識される表象ないし意識とはしっかり区別されねばならない。それはこのあとで明らかにする。

(『モナドジー』§14)

ここでライプニッツは「表象」と「意識」とを厳密に区別するが、ライプニッツによる両者の区別はデカルト派理論への批判を含意している。

(1)エルトマン版(1839年

(2)ゲルハルト版(1885年)

デカルト派の人たちは意識されない表象を無いものと見なし、この点で大きな過ちを犯した。その結果彼らは、精神だけがモナドであって、動物の魂も他のエンテレケイアも無い、と信じるようになった。そして通俗の意見にしたがって、長い失神状態と厳密な意味での死を混同した。そうして完全に遊離した魂というスコラの偏見にふたたび陥り、ひねくれた心の人たちに魂死滅の説を固めさせることさえになった。

(『モナドジー』§14)

デカルト派の理論では、長い失神状態と死とを区別できない。なぜなら、〈無意識の状態〉という点では失神状態と死とは同一と見なされるからである。失神状態が時間的に長く持続すれば、それは究極的には死と同等と見なされる、というのは欠陥のある見方だとライプニッツは考える。

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文献

*1:「諸事物の自然のうちには、同一の本性または同一の属性を有する二つの実体あるいはそれ以上多くの実体は存在し得ない」(スピノザ『エチカ』第一部定理5)。拙稿「スピノザ『エチカ』覚書(10)」参照。

*2:「実体は他の物から産出されることができない」(スピノザ『エチカ』第一部定理6系)。拙稿「スピノザ『エチカ』覚書(11)」参照。