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『源氏物語』(承前)
桐壺(承前)
(『校異源氏物語』巻一、5頁)
……はじめより、我は、と思い上がりたまへる御方、めざましき物におとしめそねみ給ふ。同じ程、それよりげらふの更衣たちはましてやすからず。朝夕の宮仕へにつけても人の心をのみ動かし、うらみを負う積りにやありけむ、いとあづしくなりゆき、物心ぼそげに里がちなるを、いよいよ飽かずあはれなる物に思ほして、人の譏りをもえ憚らせ給はず、世のためしにも成りぬべき御もてなしなり。
與謝野晶子訳で鮮やかに訳出されているように、ここでは「最上の貴族出身ではないが深い御愛寵を得ている人があった」という「陽」の側面と、「宮中にはいった女御たちからは失敬な女としてねたまれた」という「陰」の側面との対比が描かれている。「そねみ」や「うらみ」を與謝野晶子が「嫉妬」と訳しているように、「嫉妬」がこの物語を動かす鍵となる感情として最初に登場している。
(つづく)