クリス・ミラー『半導体戦争——世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』(ダイヤモンド社、2023年)
曖昧な「地政学 Geopolitik」の定義をめぐる重要な要素の一つに「資源」の問題がある。これまで石油エネルギーに関して資源ナショナリズムの問題が議論されてきたが、将来的に、というか既に地政学的に重要となっている資源は水・電気・半導体であり、これら三つは連関の内にある。計算機科学を支える技術は半導体の進歩に依存しており、その指数関数的発展をマルサスの如く言い表したものが「ムーアの法則」である。ムーアの偉大さは自己の確信に従ってインテルを創業しチップを発展させ市場を席巻したことであるが、自動運転技術やビットコインのマイニング、生成AIを高速に駆動させる点ではGPU開発に莫大な投資を行ってきたNVIDIAに軍配が上がりつつある。
私自身、スマホ販売を通じてまさに半導体戦争の渦中でこの8年間働いてきたし、現在も働いている。そのため利害関係者の一人として滅多なことは言えないが、少なくとも今後も半導体の発展にともなってデータ処理は指数関数的な伸びを示すことになるであろうし、そのためにはさらに消費が増大する電力の供給が欠かせない。そしてGoogleがデータセンターの冷却に膨大な水資源を消費していることを鑑みると、今後は水戦争が起こっても何ら不自然ではない。