まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

読書前ノート(32)岸政彦/梶谷懐編著『所有とは何か:ヒト・社会・資本主義の根源』

岸政彦/梶谷懐編著『所有とは何か:ヒト・社会・資本主義の根源』(中央公論新社、2023年)

 読書前ノート(31)坂上孝『プルードンの社会革命論』を取り上げた際に「所有」について現代的に再考する必要があるのではないかと述べたが、まさしくそれを行なったのが本書である。

 個人的に読んでいて興味深かったのが、小川さやか「手放すことで自己を打ち立てる——タンザニアのインフォーマル経済における所有・贈与・人格」(本書第二章、85〜142頁)である。

 タンザニアの人々は共同体への贈与経済で成り立っており、お世話になった人への贈与を断れば共同体からの締め出しを食らうリスクとセットになっている。自分が購買する物は他人に贈与することを前提としているので、誰にあげても大丈夫なように、汎用性の高い文言の記載された品物や、自分が普段使うよりも大きめの品物が真っ先に購入対象として選択されるという。

 こうした視点は私にとって「目から鱗」であった。買ったモノを他人に贈与したりシェアしするという選択肢は、少なくとも私個人に関しては皆無であったからだ。そしてそのような購買行動は多かれ少なかれ日本の中にも存在すると考える。「所有」について知ることは、人間行動の理解に役立つだろう。