まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

読書前ノート(23)大塚ひかり『ヤバいBL日本史』

大塚ひかり『ヤバいBL日本史』(祥伝社、2023年)

 〈性政治〉の誕生

 本書はBL(ボーイズラブ)の観点から日本史を整理するという大胆な試みを行っている。著者の大塚ひかりさんは、古典の内容を的確に捉え、現代の言葉で表現することに長けており、すでにいくつもの優れた業績をお持ちだ。

 かつてミシェル・フーコーは近代西欧の人間の活動的生活に対する統治術を〈生政治〉(Bio-politics)と呼んだが、本書で描かれているのは古代日本の人間たちにおける性生活を介在させた統治様式であり、これはある意味で〈性政治〉(Sexual-politics)と呼んでも良いのではなかろうか。もちろん〈生政治〉から〈性政治〉へのテーマの変化が、晩年のフーコー自身にもなかったとは言えないだろう。

 政治における〈性〉の果たす役割が非常に大きいことはフェミニズムによって明らかにされてきた。実際、〈性〉と〈権力〉とは強く結びついている。このことは政治の世界だけに拘らず、例えばジャニー喜多川とジャニーズとの関係においても言える。

 注意しなければならないのは、〈性政治〉がセックスを介在させているがゆえにいわゆる「ホモソーシャル」(セジウィック)という言葉では整理され得ない領域を含んでいる点である。そのことをうまく言い表しているのが「BL」なのである。