まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

日曜歴史家フィリップ・アリエスと〈精神性の歴史〉

 フィリップ・アリエス(Philippe Ariès, 1914-1984)とは何者なのか。彼は歴史家であるが、大学の先生ではなく、「日曜歴史家 Historien du dimanche」を自称していた。私は(荒木優太さん(1987-)に倣い)在野研究者を自称しているが、アリエスもまた在野研究者の先蹤であった。

 アリエスの手法で有名なものに「精神性の歴史 Histoire des mentalités」がある。当時の人々がそのまなざしから対象をどのように捉えていたのか、そしてその変化を読み取るのが「精神性の歴史」である。ドイツ語に「精神史 Geistesgeschichte」というよく似た言葉があるが、その語に含まれる思想や世界観は「精神性の歴史 Histoire des mentalités」とは大きな隔たりがあるように思われる。ドイツ語の「精神史 Geistesgeschichte」にあっては、ヘーゲルの歴史哲学のように各時代の人々の動きは世界精神の単なる傀儡に過ぎない。これに対してフランス語の「精神性の歴史 Histoire des mentalités」では、各時代の人々のまなざしに注意を向ける。「精神性の歴史 Histoire des mentalités」のこうした手法は、ヘーゲルというよりはフーコーのそれに近い。