目次
マルクス「フォイエルバッハ・テーゼ」(承前)
10テーゼ
Der Standpunkt des alten Materialismus ist die bürgerliche Gesellschaft, der Standpunkt des neuen die menschliche Gesellschaft od. die gesellschafliche Menschheit.
古い唯物論の立場は市民社会であり、新しい唯物論の立場は人間的社会あるいは社会的人間性である。
(MEGA² IV/3, S.21)
ここでは新旧二つの「唯物論 Materialismus」の立場が示されているが、マルクスがとりわけ重要視しているのは、いうまでもなく「新しい唯物論の立場」である。
1843年頃の手稿『ヘーゲル国法論批判』(『ヘーゲル法哲学の批判のために』)以降のマルクスは首尾一貫して狭隘なブルジョワ性を軸とする「市民社会 bürgerliche Gesellschaft」のあり方を批判しているが、近代「市民社会」のあり方を原理的に明らかにしたのはヘーゲル『法哲学』(G. W. F. Hegel, Grundlinien der Philosophie des Rechts, 1820)の功績である。これに対置される「人間的社会 menschliche Gesellschaft」ないしは「社会的人間性 gesellschafliche Menschheit」とは、公人たる志操から乖離して、私的利益の追求のみを自己目的とする狭隘なブルジョワ性にとどまることのない、よりトータルに把握された「人間」のコミュニケーションから成り立っている社会と考えられる。それはマルクスが『独仏年誌』の二論文——『ヘーゲル法哲学批判序説』『ユダヤ人問題によせて』——で示したような「人間」——彼が「人間的解放」という際の——のあり方であろうが、これを「唯心論」ではなく「新しい唯物論の立場」として規定した点にマルクスの妙味がある。というのも、それが「唯物論 Mateliarisums」の意義を刷新し、その意味変容を引き起こさずにはいられないからである。
(つづく)