まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

読書前ノート(14)山本貴光(著)・橋本麻里(編)『世界を変えた書物』

山本貴光(著)・橋本麻里(編)『世界を変えた書物』(小学館、2022年)

その時代の豊穣な内容を綴じ込めた原著初版を観覧する

 こんなに面白い本があるだろうか。本書は科学技術に関する重要な著書の図録である。高校の物理・化学の授業で聞いたような名前がどんどん出てくる。原著のイラストとともに、山本さんの軽妙な紹介文が載っている。原著がラテン語で書かれたのか、ドイツ語で書かれたのかということも確認できる。

 古典を読む際に、科学の知識は欠かすことができない。このブログでも例えば「マルクス『資本論』覚書(5)」でギルバート『磁石論』に言及したが、本書ではギルバートの『磁石論』も標題紙の写真付きで紹介されている(83頁)。

 翻訳によって内容を理解することと同じくらい、原著の初版を見ることは重要である。なぜなら、翻訳では再現されていない表現が原著初版には数多く存在するからである。専門用語が外国語でどのように表現されているのかという点ももちろん興味深いのだが、オーナメントやフォント、挿絵ひとつ取ってみても、その時代の雰囲気や匂いを感じとることができる。原著で著者が強調している単語(これはしばしば精確な読解の鍵となり得る)でさえ、翻訳では再現されていないことも多い。したがって、原著初版には、校訂済みの全集版等からは汲み取れないほどの情報が数多く詰まっている。このブログでGoogleブックスから初版の写真をそのまま引用しているのは、そういう狙いである。

 Googleブックスで簡単に古典にアクセスできるようになったとはいえ、いちいち検索するのは手間がかかる。本書のようにまとめてあれば、ぱらぱらとめくっているだけで、様々なインスピレーションが得られる。本書を入り口として、Googleブックスで古典の森をかき分けるのも一興である。

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