まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

読書前ノート(30)小冊子『熱風』2023年7月号

目次

小冊子『熱風』2023年7月号

無料と侮るなかれ

 書店で会計を済ませようとしたらこれがフリーペーパーとして置いてあったことに気づいた。『君たちはどう生きるか』(宮﨑駿監督、2023年)が絶賛公開中のスタジオジブリが『熱風』という小冊子を刊行していることなど今まで知らなかった。

表紙のイラストは安野モヨコ《潮の音》2023年

『熱風』2023年7月号目次
「ChatGPT」特集が組まれている。

私が手に取ったのは、代表作である『働きマン』や『ハッピーマニア』で有名な安野モヨコ(1971-)の手による素敵な表紙イラスト(これが無料とは!)と、タイムリーなChatGPT特集が組まれていたという二点に尽きる。他にも面白い対談が載っているのでぜひ手に取ってほしいが、無料冊子だからといってクオリティは論壇誌に負けないどころかむしろそれ以上に満足いく出来になっている。

 そしてやはり秀逸なのは、ドワンゴ川上量生(1968-)のChatGPT対談だ。川上氏の投げかける「人類」の定義はおかしいのではないか、と司会の額田氏が疑問を呈する。ただし額田氏の疑問は、読者の立場に寄り添った〈敢えて〉の質問だったと思う。その文脈をぜひ手に取って読んで欲しいと思う。

 さて昨今我々が議論をしている主な対象は「人類」「AI」「環境」というこれら三つに集約されるのではないだろうか。「人類とAI」であれば、生成AIが人間にとってどのように役立ち、どのように脅威となるのかが議論される。一方で、「人類と環境」であれば、SDGs、ESG、GXなど、気候変動にどう対処するのか、二酸化炭素排出量をコントロールして減らしていき、2050年に向けて気温上昇をどう抑えるのかという議論が交わされる。「AIと環境」もこれと同じで、AIの発展は電気需要を将来的に逼迫させるおそれがあるし、結局のところそれは環境負荷につながる。こうした脅威は技術論的に乗り越え可能だとする立場と、斉藤幸平(1987-)のように脱成長コミュニズムを主張する立場も存在する(斉藤幸平『人新生の資本論』集英社、2020年)。「哲学者は世界をさまざまに解釈してきただけであって、重要なのはそれを変えることである」と書き付けたマルクスは、もし今日の世界に立つとしたらどうするのだろうか。

 今日も街中は30度を超える猛暑日が続いており、本書のタイトルがますます「時宜を得たり」という顔をのぞかせる。私はこの文章をクーラーの効いたコーヒーショップでMacBook Airを使い、スマホテザリングでインターネットに接続して書いている。これが事実であり私の実態である。「空想的社会主義」に陥らず、事実に基づいて考えることが大事であるともマルクスは考えていた。我々は熱風の世界で何ができるだろうか。