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カント『純粋理性批判』(覚書)
なぜカントは『純粋理性批判』第二版のエピグラフにベーコンからの引用を載せたのか
カントは『純粋理性批判』の第二版でフランシス・ベーコン(Francis Bacon, 1561-1626)*1の著作からの引用をエピグラフとして追加している。
ヴェルラムのベーコン
『大革新』「序文」
私たちは、じぶん自身のことについて口をとざす。ここで問題となっていることがらにかんしてしかしつぎのことを希望する。ひとびとがそれを思いなしと考えるのではなく、一大事業とみなして、なにか一宗派や、勝手な思いつきの基礎づけをもくろんでいるのではなく、人類の福祉と尊厳の基礎づけをくわだてていることを確信していただきたい。ついでまた、ひとびとが自分の利益には公正に〔中略〕公共の福祉を熟慮し〔中略〕みずからこれに関与されたい。さらにひとびとがじゅうぶん希望をもって、私たちの革新がなにか際限もなく、死すべきものを超えたことがらのように想像したり、こころに思いえがかれたりされないよう願いたい。まことに、この革新こそが、際限もないあやまりを終息させ、正当な限界を与えるものだからである。
(熊野純彦訳、p. ⅹ)
まずは事実関係から押さえておこう。「ヴェルラムのベーコン」とあるが、ヴェルラム(Verulam)とはベーコンのために創設されたイギリスの男爵位のことであり、その為ベーコンが初代ヴェルラム男爵である(1618年ごろ)。
(フランシス・ベーコン肖像画の模写、1618=1731年?)
カントが『純粋理性批判』のエピグラフで引用したのは、フランシス・ベーコン『大革新』(Francis Bacon, Instauratio Magna, 1620)からである。ベーコンの主要著作として知られている『ノヴム・オルガヌム』(Francis Bacon, Novum Organum, 1620)は、この『大革新』の第二部として執筆されたものである。
フランシス・ベーコン『大革新』(Francis Bacon, Instauratio Magna, 1620)
(Bacon1620: 12)
一体なぜカントは『純粋理性批判』第二版でベーコンのエピグラフを追加したのだろうか。
一つには、カント自身がベーコンの立場と自分を重ね合わせていたことによると考えられる。本書は決して著者の思いつきを述べているのではなく、人類の生活に貢献するものであるということが述べられている箇所であるが、特に重要と思われるのは、従来の誤謬に終止符を打ち、本書が革新的な知見を導くという点である。カントにとって『純粋理性批判』はおそらくそれぐらいの自負を持って出版されたのであろう。実際、そのことをカント自身は「コペルニクス的転回」と表現してもいるのだ。
(つづく)
文献
- Bacon, Francis, 1620, Instauratio magna, Londini. (Österreichische Nationalbibliothek, 2013)
- Kant, Immanuel, 1781, Critik der reinen Vernunft, RIga. (Národní knihovna České republiky, 2016)
- Kant, Immanuel, 1787, Critik der reinen Vernunft, RIga. (Universiteit Gent, 2008)
- カント 2012『純粋理性批判』熊野純彦訳,作品社.
*1:彼の有名なフレーズに「知は力なり」というものがある。