まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

読書前ノート(19)アントワーヌ・アルノー/ピエール・ニコル『ポール・ロワイヤル論理学』

アントワーヌ・アルノー/ピエール・ニコル『ポール・ロワイヤル論理学』(山田弘明・小沢明也訳、法政大学出版局、2021年)

「ロジック」をどう教えるか

 4月に入り、私にも社内異動があり、部下は2人から8人へ増えた。——増えすぎじゃないかー?——増えた部下とコミュニケーションを取るのだが、私は細かいフィードバックをするときに「ロジック」という言葉を使う。だが、いきなり「ロジック」などと言われても、部下が即座に理解できるはずがない。『それはどういう意味でしょうか?』とわざわざ質問させるのも野暮である。

 私がいう「ロジック」とは哲学的論理学のそれであって、つまりその際に観念されているのはアリストテレス以来の論理学からヘーゲルの論理学までであって、今巷の本屋で手に入る論理学の教科書に書いてあるような現代数理的論理学ではないからである。ビジネスの現場では記号化された論理学は不要である。むしろ必要な観念は思考のための道具であって、「類—種」関係や推論だとか「普遍性—特殊性—個別性」だとか「抽象*1—具体」とか、存在—本質—概念」といった関係性を理解しておくことだろう。問題は「ロジック」を伝える類の本がなかなか存在しないということである。どんなに間違っても初学者向けにヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』など決して手にとってはならないし、戸田山和久『論理学をつくる』も取っ付きにくいので不要である。

 そういう意味では、アントワーヌ・アルノー/ピエール・ニコル『ポール・ロワイヤル論理学』が役にたつかもしれない。本書は論理学の手引きとして、実際に教育の現場——ポール・ロワイヤル修道院だけでなく、その後の大学でも用いられた——で教えることを前提として書かれているからである。その「ロジック」は300年以上経った現代でも有効である。

sakiya1989.hatenablog.com

*1:ただしヘーゲルのいう「抽象(アブストラクト)」が通俗的観念からすると分かりにくいので、部下に対してはいちいち説明しない。