まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

マルクス『資本論』覚書(10)

目次

sakiya1989.hatenablog.com

マルクス資本論』(承前)

第一部 資本の生産過程(承前)

平面幾何学と三角形

(1)ドイツ語版『資本論』初版

 簡単な幾何学上の一例は,このことをもっとわかりやすくするであろう.およそ直線形の面積を算定し比較するためには,それをいくつかの三角形に分解する.その三角形そのものを,その目に見える形とはまったく違った表現——その底辺と高さとの積の二分の一——に還元する.これと同様に,諸商品の諸交換価値は,それらがあるいはより多くあるいはより少なく表わしている一つの共通なものに還元されるのである.

(Marx1867: 3,岡崎訳75頁)

(2)ドイツ語版『資本論』第二版

 簡単な幾何学上の一例は,このことをもっとわかりやすくするであろう.およそ直線形の面積を測定し比較するためには,それをいくつかの三角形に分解する.その三角形そのものを,その目に見える形とはまったく違った表現——その底辺と高さとの積の二分の一——に還元する.これと同様に,諸商品の諸交換価値は,それらがあるいはより多くあるいはより少なく表わしている一つの共通なものに還元されるのである.

(Marx1872a: 11-12,岡崎訳75頁)

(3)フランス語版『資本論

 初等幾何学から借用する一例が,このことをもっとわかりやすくするであろう.あらゆる直線図形の面積を確定し比較するためには,それらをいくつかの三角形に分解する.その三角形そのものを,目に見えるその形とはまったく違った一表現——その底辺と高さの積の二分の一——に還元する.これと同様に,諸商品の諸交換価値は一つの共通なものに還元されるはずであり,それらはこの共通なものの,あるいはより多くを,あるいはより少なくを,表しているのである.

(Marx1872b: 14,井上・崎山訳525頁)

(4)ドイツ語版『資本論』第三版

 簡単な幾何学上の一例は,このことをもっとわかりやすくするであろう.およそ直線形の面積を測定し比較するためには,それをいくつかの三角形に分解する.その三角形そのものを,その目に見える形とはまったく違った表現——その底辺と高さとの積の二分の一——に還元する.これと同様に,諸商品の諸交換価値は,それらがあるいはより多くあるいはより少なく表わしている一つの共通なものに還元されるのである.

(Marx1883: 4,岡崎訳75頁)

ドイツ語版初版のみ,このパラグラフの「一つの共通のもの ein Gemeinsames 」という語が強調されている*1.商品における「共通のもの」が幾何学上の三角形に例えられている.

 ここでマルクスが挙げている「簡単な幾何学上の一例」とは,三斜法として知られている測量の方法である(「幾何学」の語源は「土地測量」という意味である).平行四辺形の面積の半分が三角形の面積であるから,「底辺と高さとの積の二分の一」によって三角形の面積を計算できる.(ちなみに三角形の面積を求めるのにはヘロンの公式を用いても問題はない.)

f:id:sakiya1989:20210605072327p:plain

 マルクスが取り上げているのはあくまで「直線的な図形の面積」を求める場合である.「直線的な図形」ではない場合には別の取り扱いをしなければならない.非平面幾何学における三角形(例えば,球面三角形や双曲三角形)の場合には,内角の和が180度にはならないからである.

sakiya1989.hatenablog.com

文献

*1:ちなみに,一つ前のパラグラフに遡ってみると,ドイツ語版初版では「同じ価値 derselbe Wert 」とされていた箇所が,ドイツ語版第二版以降では「同じ大きさの一つの共通のもの ein Gemeinsames von derselben Grösse 」と変更されていることがわかる.