まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

『リコリス・リコイル』から組織内の不条理な処分について考える

はじめに

 今回は、TVアニメ『リコリス・リコイル Lycoris Recoil』(足立慎吾アサウラいみぎむるA-1 Pictures、2022年)から組織内の不条理な処分について考えたいと思う。

 『リコリス・リコイル』の主人公は錦木千束(にしきぎちさと、以下「千束」) と井ノ上たきな(いのうえたきな、以下「たきな」)の二人であり、彼女たちが所属している治安維持組織DA(Direct Attack)の実行部隊は「リコリス」と呼ばれている。

 第一話でたきなは、本部指示の待機命令違反を無視して銃撃し、敵を制圧する。たきなは目に見える成果を挙げたのだが、しかし命令違反のかどで所属チームを外され、「喫茶リコリコ」で働く千束の元に配属される。いわゆる左遷である。

たきなが受けた不条理な左遷

 たきなからすれば、結果として成果を挙げたのに左遷させられるという処分は、不条理に他ならない。待機命令違反とはいえ、現場で自身の取った射撃行動が最も合理的な結果をもたらしたと彼女自身は確信している。たきなは新たな配属先の「喫茶リコリコ」で働きながら、元のチームに戻ることを組織に要望する。しかし、この処分は覆らない。

 ここで重要なのは、たきなの視点ともうひとつ、上司である楠木司令官の視点である。たきなからすれば不条理な処分も、組織の目線で見ると、不本意ながら不都合な都合に合わせた処分である場合がある。しかし、どうしてそういう処分になったのかの背景を、処分されたたきなが知る由もないし、知らされてはならない。

左遷先に新たな居場所を見出すたきな

 この物語は、「左遷」という不条理でネガティヴな処分に、別の見方をもたらす。物語が佳境に入った頃には、千束とたきなは強い絆で結ばれるようになる。千束の心臓があとわずかな時間しか持たないということが発覚してからは、視聴者はまさに胸が締め付けられるような思いで彼女たちの活動を見守ることになる。たきなは左遷に不条理さを感じつつも、千束の下で「喫茶リコリコ」に自分の居場所を見出すようになっていく。

おわりに

 たきなが被った不条理な処分は、現実の会社組織でも十分に起こりうるものである。優れた物語は、ある現象を別の側面から照射し、新たな見方をもたらす。同一の現象であっても、ネガティヴな見方とポジティブな見方が同時にあり得るのである。そして現場レベルでの合理性(直接的な成果)と、組織レベルでの合理性(相互連関した全体最適)の観点もまた異なるものである。これは視点の違いによるものであって、不条理な処分が下されたからといって、必ずしも個人レベルでは過度に卑下する必要はないことがわかる。

 そもそも組織内の評価や処分が正当に下されるとは限らない。だが、やはり正当な評価や処分を下して欲しいという欲望が我々には存在する。したがって、組織とは、所属成員の欲望が折り合いをつける場だということにもなるだろう。