はじめに
巷で人気の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(サンライズ、2022年)を筆者は毎週Amazonプライムビデオで視聴している。同作品が10月20日(木)よりNetflixでも配信されるようになった。そこで、ふとそれぞれのストリーミングサービスで『水星の魔女』の画質を比較することにした*1。
『水星の魔女』をNetflixで観ない方が良い理由
AmazonプライムビデオよりもNetflixの方が月額料金は高い。しかしながら、こと『水星の魔女』に関して言えば、Netflixよりも、Amazonプライムビデオの方が画質が良かった。したがって、『水星の魔女』をNetflixで観ることはお勧めしない。
AmazonプライムビデオではHDにふさわしい画質を提供していた。諧調もしっかりと表現できているし、ノイズが少ない。EDのフィルムグレインをしっかり再現しようとしているので、パキッとした仕上がりになっており、好印象である。
これに対して、Netflixの映像では細部にノイズが乗っていた。暗部ではブロックノイズが見え、諧調を表現できていない。これで「高画質」を名乗るのであれば、担当者のエンコードが下手なのでは?と思う。マトリクスを変えた方が良い。「Dolby Vision」マークがついているが、この画質で「Dolby Vision」表記は詐欺である*2。
こうした画質の違いが『水星の魔女』だけに限ったことなのかはわからない。だが、ここで明らかなことは、NetflixよりもAmazonプライムビデオの方が『水星の魔女』の画質が良かったということと、NetflixよりもAmazonプライムビデオの方が月額料金が安いということである。
『水星の魔女』の配信開始日が、Netflixは遅かった。そもそも当初は『水星の魔女』をNetflixで配信するというアナウンスはなかったのである。だが、『水星の魔女』が放送後に「ウテナだ!」と話題にのぼるにつれ、Netflixも配信に加わらないわけにはいかなくなったであろうということは当然予想される。Netflixは今回『水星の魔女』を急いで配信しようとしたから、エンコードに高負荷をかけずに速く処理したのだろうか。
【参考】『水星の魔女』ED比較画像
- 撮影日:2022年11月1日。
- 作品名:『機動戦士ガンダム 水星の魔女』エピソード4「第3話 グエルのプライド」*3
- アプリ側の制御によりスクリーンショットを撮影できない為、自宅の大型テレビ(LG 55型 4Kチューナー内蔵 有機EL テレビ OLED55B1PJA Alexa 搭載 2021 年モデル)の画面をAndroidスマートフォン(Google Pixel 3 XL)のカメラで撮影している。
- Prime Video版:右下に「サンライズ」ロゴ有り。
- Netflix版:右下に「サンライズ」ロゴ無し。
【参考】『水星の魔女』ED比較画像2
- 撮影日:2022年11月2日
- 作品名:『機動戦士ガンダム 水星の魔女』エピソード2「第1話 魔女と花嫁」
誰がEDをまともに観るのか?——Netflixの圧縮思想
上に示した比較画像はED部分だけであるが、そもそもNetflixはアバンやOP、本編と比較して、ED部分の圧縮率を高く設定しているように思われる。その背景にあるのは、ユーザーの大多数はクレジットをまともに観ていない、或いはクレジットをスキップしている、という事実ではないかと考えられる。この事実をビンジ・ウォッチング(binge-watching、一気見)について調査する中で突き止めたのは、他ならぬNetflix自身であろう。そこからNetflixが『クレジットをまともに観る人は少ないのだから、EDにビットレートを割り当てなければよいではないか』という発想に至るには、一歩踏み出すだけでよかったはずである。
EDの圧縮率を上げれば、端末にDLする1話あたりのデータ量を少なく抑えられ、その分トラフィック負荷も低減される、というメリットがある。Netflixほどのユーザー数を抱えていれば、エコロジーの観点からしても、通信インフラや電力に与える影響力は、1MB単位での変化であっても計り知れないものがある。したがって、Netflixのように圧縮率を適度にコントロールすることは、一概に悪いとは言えない。Netflixの圧縮思想は、さしずめそんなところであろう。
洗練されたオタクはわざわざEDを飛ばさない。次回予告も、最後の一枚絵のテロップも、しっかり見届けるのである。だから、EDでわざとビットレートを下げたりして手を抜かないでほしい。せっかくサブスクで気にせず高画質で見れるはずなのに、『ええい、だったら俺にエンコードさせろ!』などと余計な頭を使うことになってしまう。そんなことはさせないで欲しい。私がこんな記事を書くこと自体が、NetflixのNPSにとってマイナスに働いてしまう。
おわりに
NetflixやAmazonプライムビデオについては、以前、このブログで触れたことがある(「映像ストリーミングサービス:Netflixを支える技術」)。その際に、NetflixはAWSを用いてエンコードしているとネットの記事には書いてあった。AWSはAmazonのサービスであるから、Amazonプライムビデオの動画もAWSでエンコードしているはずである。NetflixとAmazonプライムビデオのどちらが存分に高負荷なエンコードを行うことが可能かといえば、当然AWSを自社グループのサービスとして有しているAmazonプライムビデオであろう。Amazonは紙媒体を殲滅すべくKindleプロジェクトを立ち上げたことでも知られているが、同様の戦略(低価格・高品質・即配信)をAmazonプライムビデオでも行っている。これに対して、『水星の魔女』に関して言えば、Netflixは高価格・低品質・遅配信になってしまっている。もしもこのような状況が今後も慢性化するならば、Netflixは今後、Amazonに蹴落とされ、早々とFAANG*4から没落するかもしれない。
*1:筆者はNetflixのスタンダードプランに加入している。Netflixのスタンダードプランの解像度はHDに対応しているが、4K UHDには対応していない。配信コンテンツのソースごとに元の画質や解像度が異なるので、加入プランだけで画質に関して一概には言えない。動画ストリーミングサービスは、通信環境(Wi-Fiかモバイルデータ通信か)の回線速度(下り速度)によって、最適な画質を提供する。その為、画質を比較する為には、Wi-Fi環境下で最高画質になるようにあらかじめ設定しておく必要がある。
*2:2022年11月1日時点で、「Dolby Vision」の表記がNetflixアプリから消えたことに気づいた。私の書き込みで消されてしまったのだろうか。
*3:エピソード1が「Prologue」なので、1話分カウントがズレる。