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自民党「日本国憲法改正草案」(承前)
前文(承前)
日本国民は,国と郷土を誇りと気概を持って自らを守り,基本的人権を尊重するとともに,和を尊び,家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する.
(自民党2012: 1)
ここで第三パラグラフになってようやく本来の主権者である「日本国民 Japanese people」が登場する.
ここで特徴的なのは,日本国民が「和を尊び,家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する」と述べられている点である.字面だけ追うと道徳的に良いことを述べているように一見思われるのだが,そもそも憲法にこんなことをイチイチ明文化されてはたまったものではない.改憲草案には,この箇所がそっくりそのまま条文として書き込まれているのである.
第二十四条 家族は,社会の自然かつ基礎的な単位として,尊重される.家族は,互いに助け合わなければならない.
(自民党2012: 8)
この箇所は改憲草案で新たに盛り込まれた箇所であるが,これでは山上徹也容疑者の母親がいくら統一協会に献金しようとも,それによって家族が崩壊しようとも,親族は「家族なんだから助けてあげなさい」と憲法に命令されてしまうことになろう.
そもそも「家族」とは「社会の自然かつ基礎的な単位」ではない.「家族」とは「社会」と区別される圏域であって,「社会」の中に包摂される要素ではない.
しかし,これに対して,改憲草案では,家族とは「社会の自然かつ基礎的な単位」だとされる.したがって,家族とは,社会から独立した共同体ではなく,社会の構成要素に過ぎない.これによって家族は社会の要請に従わざるを得なくなる.家族には,社会から切り離された自由は存在しない.
(つづく)