目次
ヘーゲル『法の哲学』(承前)
第三部「人倫」第一章「家族」(承前)
「家族」章の構成
第160節
家族は以下の三つの面を通じて完結する.
(a)家族の直接的概念である婚姻という形態を通じて,
(b)外面的定在,つまり家族の所有物と財と,これらに対する配慮を通じて,
(c)子どもの教育と家族の解体を通じて.
(Hegel1820: 167,上妻ほか訳(下)36頁)
この箇所では「家族」章の構成が端的に述べられている.つまり,上の「三つの面」が,「家族」章のA「婚姻」,B「家族の資産」C「子どもの教育と家族の解体」の節にそれぞれ対応している.
以上の三節の順番は,むやみやたらに入れ替え可能なものではなく,時系列に沿って,というよりもむしろ,家族の概念的な発展段階に即していると言える.
A「婚姻」は,家族形成の端緒として,最初に来なければならない.その意味で「婚姻」は家族の「直接的概念」と述べられているのである.
B「家族の資産」の議論は,実は後の「市民社会」章の「普遍的資産」(第199節・第200節ほか)の議論をするための布石となっている.さらに「配慮 Sorge」について述べておくと,これが同じく「市民社会」章のC「行政と職業団体」における「普遍的配慮」(第236節)の議論するための布石となっている.ヘーゲルは本書の構成として「家族」章の議論を先在させることによってはじめて「市民社会」を「普遍的家族」(第239節)と呼ぶことができたのである.
C「子どもの教育と家族の解体」に関して述べておくと,上で「子どもの教育 Erziehung」の語は強調されているが,「家族の解体 Auflösung」の語は強調されていない.その点に注意を向けると.この節の中心が「子どもの教育」にあることがわかる.つまり「子どもの教育」による自立した人格の形成によって,結果的にそれが「家族の解体」に繋がるのであり,次の「市民社会」への移行という役割をも果たすのである.