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ヘーゲル『法の哲学』覚書:「世界史」篇(2)

目次

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ヘーゲル『法の哲学』(承前)

世界史(承前)

四つの世界史的帝国

 第354節

 これら四つの原理に従って,世界史的帝国には次の四つが存在する.(1)オリエント,(2)ギリシア,(3)ローマ,(4)ゲルマンである.

(Hegel1820: 350,上妻ほか訳(下)368頁,訳は改めた)

ここでヘーゲルの「世界史的帝国 welthistorischen Reiche」という概念に着目してみたい.

 ヘーゲルは先に„Weltgeschichte“(第340節)という語を用いていたが,ここ第350節では„welthistorischen“と述べている.ドイツ語の„historisch“と„geschichtlich“はどちらも「歴史的」という意味の類義語であり,相互に置換可能だということであろう.

 „Reich“は,上妻ほか訳では「領野」「世界」と訳され,藤野渉・赤沢正敏訳(中央公論新社)では「治世」と訳されている.„Reich“は今ではドイツ「第三帝国 Drittes Reich」(ナチスドイツ)の印象が強いので,ヘーゲルのテクストにおいては,支配領域の拡大路線を取る「帝国主義」の観念をもたらす「帝国 Reich」という訳語はあえて採用しない,というのが現今の基本方針のようである.

 しかしながら,ここではヘーゲルの„Reich“を「帝国」と訳した上で,ヘーゲルの「世界史的帝国」なる概念がいかなるものであるのかを改めて確認したい.それでも「帝国」という訳語が不適当だという結論に至るならば,それも良しとしよう.

 さて,ヘーゲルによれば,「世界史的帝国」にはオリエント帝国・ギリシア帝国・ローマ帝国・ゲルマン帝国の四つがあるとされ,そしてこれらの区分は前節(第353節)で述べられた「四つの原理に従って Nach diesen vier Prinicipien」いるとされる.ヘーゲルがこのように「世界史的帝国」を四つの原理に従って区分したということが意味することは,「世界史」とは西暦のような年代記に従って考察されるべきものではなく,原理に従って考察されるべきであるとヘーゲルが考えていたということである.

 「世界史」における四つの原理がそれぞれ異なっているということは,「世界史」が単なる反復ではないことをも意味している.もちろん異なる時代,異なる地域であっても,過去の原理が反復され,互いに原理的に重なり合う部分は存在するであろう.しかしながら,異なる時代の異なる地域が互いに原理的に重複するということは,後続して出てきたところでは世界史的意義をもはや持たないであろうし,異なる地域に同一の原理が見いだされる場合には,その原理がより先行して出現した場所に〈帝国〉の名が冠せられることになろう.

 それにしても,ヘーゲルが「世界史」をたった四つの原理に還元したことに驚く.「世界史」の原理とはそんなに少ないものなのだろうか.「世界史」はどのような原理に従って区分されうるのだろうか.その内容について次回以降見ていきたい.

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