バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論——仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』(技術評論社、2022年)
それは参与観察さえ〈超えて〉いる
今年最初で最大の衝撃の書かもしれない。私が本書を手にしたのは、今後のトレンドを示すための社内向けのスライドを作成するためにもしや参考になるかもしれないと思って書店でふと手にしたことがきっかけだった。いわゆる〈メタバース〉の関連書籍の中で最初に手にしたのが本書だったのは幸いであった。とにかく驚かされるのは著者の教養の深さである。その叙述に現れる教養の深さとはまさにアカデミックな世界におけるそれであり、それが本書のいたるところに現れている。例えば、本書35頁以下の「メタバースではないもの」という箇所で、「メタバースはSNSのことではない」「メタバースはオンラインゲームのことではない」「メタバースはAR・VRのことではない」「メタバースはNFT・ブロックチェーンのことではない」というように、なんと否定神学の形式で〈メタバース〉が論じられているのである。こうした叙述様式の点においては、佐藤航陽『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』(幻冬社、2022年)や國光宏尚『メタバースとWeb3』(エムディエヌコーポレーション、2022年)のような経営者の方々によって書かれたメタバース系の書籍とは一線を画している。目次の出来栄えに感動すら覚える。形式だけでなくその内容も充実しており、実在するいわゆる「中の人」が社会学系大学院博士課程を修了されているのか、はたまたどこかの大学で教鞭を執っているのか等は不明であるが、少なくとも本書が素晴らしい日本語で書かれ読めることに感謝すべきである。しかもカラー印刷で1,980円(税込)というのはどう考えても安い、安すぎる。