まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

ヘーゲルと医学——解剖学・有機体・病理学(2)

目次 ヘーゲルの「病気」概念:孤立と自立 文献 sakiya1989.hatenablog.com ヘーゲルの「病気」概念:孤立と自立 本稿では、ヘーゲルがいわゆる『法哲学』で政治社会を有機体に擬えて論じた次のパラグラフについて考察してみたい。少し長くなるが前後の文脈…

フーコー「社会医学の誕生」覚書(3)

目次 フーコー「社会医学の誕生」(承前) 序(承前) 社会医学の三つの源泉:ドイツ国家医学・フランス都市医学・イギリス労働力医学 文献 sakiya1989.hatenablog.com フーコー「社会医学の誕生」(承前) 序(承前) 社会医学の三つの源泉:ドイツ国家医学…

日曜歴史家フィリップ・アリエスと〈精神性の歴史〉

フィリップ・アリエス(Philippe Ariès, 1914-1984)とは何者なのか。彼は歴史家であるが、大学の先生ではなく、「日曜歴史家 Historien du dimanche」を自称していた。私は(荒木優太さん(1987-)に倣い)在野研究者を自称しているが、アリエスもまた在野…

ジョン・ロック『統治二論』覚書(1)

目次 はじめに 文献 はじめに 本稿ではジョン・ロック『統治二論』(John Locke, Two Treatises of Governmen, 1690)の読解を試みる。 彼の著作に関しては、私はさほど興味を持ってこなかったものの、あることがきっかけで突然読んでみたくなった。きっかけ…

ジャック・デリダ『弔鐘』覚書(8)

目次 ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 〈伝説〉としてのヘーゲル家族論 文献 sakiya1989.hatenablog.com ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 〈伝説〉としてのヘーゲル家族論 Ceci est ‒‒ une légende. Non pas une fabl…

フーコー「社会医学の誕生」覚書(2)

目次 フーコー「社会医学の誕生」(承前) 序(承前) スペイン語の講演記録 ロストウの「テイク・オフ」 文献 sakiya1989.hatenablog.com フーコー「社会医学の誕生」(承前) 序(承前) スペイン語の講演記録 さて、あらためて冒頭から読んでいきましょう…

読書前ノート(13)物江潤『デマ・陰謀論・カルト スマホ教という宗教』

物江潤『デマ・陰謀論・カルト スマホ教という宗教』(新潮社、2022年) 陰謀論と免疫反応 最近「陰謀論」をテーマにした本を何冊か買ってきた。今更ながら「陰謀論」について考えてみようと思い立ったのは、私がついに陰謀論者と対話する機会があったからで…

フーコー「社会医学の誕生」覚書(1)

目次 はじめに フーコー「社会医学の誕生」 序 資本主義社会における身体と医学 文献 はじめに 以下ではフーコー「社会医学の誕生」(Michel Foucault, El nacimiento de la medicina social, 1977)を読みます。このテクストを読むことになったきっかけは、…

ジャック・デリダ『弔鐘』覚書(7)

目次 ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 ヘーゲルの署名と〈絶対知〉のコルプス 「残余の思考」と「思考するための残余」 (右)ジュネ欄 交差=一致する、残余の二つの機能 文献 sakiya1989.hatenablog.com ジャック・デリダ『弔鐘』(承…

ヘーゲルと医学——解剖学・有機体・病理学(1)

目次 はじめに ヘーゲルと医学 ヘーゲルと解剖学 ホッブズと解剖生理学 文献 「自分自身が医者であり、しかも、きわめて思索的な医者でもあるケネー氏は、政治体についても同じ種類の理解を心に思い浮かべ、それは、一定の厳密な養生法——完全な自由と完全な…

パワハラ対策としてのアジール

かれこれ10年以上前になるが、「アジール」という言葉を私が知ったのは、網野善彦『無縁・公界・楽』(平凡社ライブラリー、1996年)を学生の頃に読んだときだった。アジール(Asyl)とは、概して「権力の及ばない圏域」を意味する。「権力 Gewalt」とはすな…

ジャック・デリダ『弔鐘』覚書(6)

目次 ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 教育と署名との両立不可能性 (右)ジュネ欄 残余としての僅かなもの 文献 sakiya1989.hatenablog.com ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 教育と署名との両立不可能性 On ne sait …

ジャック・デリダ「署名 出来事 コンテクスト」覚書(1)

目次 はじめに ジャック・デリダ「署名 出来事 コンテクスト」 文献 はじめに ジャック・デリダ(Jacques Derrida, 1930-2004)の有名なテクストに「署名 出来事 コンテクスト」(signature événement contexte, 1971)がある。このテクストは、1971年にモン…

ジャック・デリダ『弔鐘』覚書(5)

目次 ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 略号とコード 「無原罪懐胎」の恣意性 速記法のアンビバレントな両側面 文献 sakiya1989.hatenablog.com ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 略号とコード Sa sera désormais le si…

読書前ノート(12)國分功一郎『スピノザ——読む人の肖像』

目次 國分功一郎『スピノザ——読む人の肖像』(岩波書店、2022年) 「……を私は……と解する」という定義の仕方は、ただ単に「名目的な」だけなのか 國分功一郎『スピノザ——読む人の肖像』(岩波書店、2022年) 「……を私は……と解する」という定義の仕方は、ただ…

Netflixが没落する日

はじめに 巷で人気の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(サンライズ、2022年)を筆者は毎週Amazonプライムビデオで視聴している。同作品が10月20日(木)よりNetflixでも配信されるようになった。そこで、ふとそれぞれのストリーミングサービスで『水星の魔女…

ジャック・デリダ『弔鐘』覚書(4)

目次 ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 〈絶対知〉とそのテクスト (右)ジュネ欄 〈残ったもの〉という計算不可能なものの計算可能性 文献 sakiya1989.hatenablog.com ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 〈絶対知〉とそ…

ジャック・デリダ『弔鐘』覚書(3)

目次 ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 「鷲(エグル)」に擬せられるヘーゲル (右)ジュネ欄 包摂関係にある不均等な二つの欄 文献 sakiya1989.hatenablog.com ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 「鷲(エグル)」に擬…

ジャック・デリダ『弔鐘』覚書(2)

目次 ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 デリダの問い (右)ジュネ欄 〈残余〉とは何か 文献 sakiya1989.hatenablog.com ジャック・デリダ『弔鐘』(承前) (左)ヘーゲル欄 デリダの問い Qui, lui? 誰か、彼とは? (Derrida1974: 7,鵜…

ジャック・デリダ『弔鐘』覚書(1)

目次 はじめに ジャック・デリダ『弔鐘』 (左)ヘーゲル欄 ヘーゲルから残ったもの (右)ジュネ欄 ジュネから残ったもの 文献 sakiya1989.hatenablog.com I read Glas as an autobiography, "about" Hegel, Marx, Nietzsche, Freud, Genet et al. ——Gayatr…

「「当事者は嘘をつく」の書評への感想」へのリプライ(2)

目次 はじめに 〈赦す〉という言葉で私は何を述べようとしたのか manaasamiさんの疑問に対して おわりに 文献 はじめに 私は「読書前ノート(11)」(2022年8月31日)で小松原織香『当事者は嘘をつく』(筑摩書房、2022年)を取り上げて書評した。その書評…

「「当事者は嘘をつく」の書評への感想」へのリプライ

目次 はじめに 語ることの難しさ 書評後に考えたこと 〈赦し〉の文脈 はじめに 先日私は「読書前ノート(11)」で小松原織香『当事者は嘘をつく』(筑摩書房、2022年)の書評を書いた。この書評への感想が届いた。 manaasami.hatenablog.com はてなブログ…

『梨泰院クラス』所感

目次 はじめに 『梨泰院クラス』はプラトニック・ラブを描いているのか 悲劇としての『梨泰院クラス』 なぜセロイはスアと結ばれないのか おわりに はじめに Netflixで『梨泰院クラス』(이태원 클라쓰、JTBC、2020年)を観た。陳腐な言い方になるが、面白か…

ヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』覚書(2)

目次 ヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』(承前) 『論考』の叙述様式 〈世界〉とは何か 〈事態〉とは何か 文献 sakiya1989.hatenablog.com ヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』(承前) 『論考』の叙述様式 『論考』は以下の命題から始まっている. 1 …

ヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』覚書(1)

目次 はじめに ヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』 初版のタイトルとラッセルの序文 文献 はじめに 本稿では,20世紀を代表する哲学者であるルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン(Ludwig Josef Johann Wittgenstein, 1889-1951)の主著『論理哲学論考』(…

ヘーゲル『エンツュクロペディー』覚書:「動物有機体」篇(2)

目次 ヘーゲル『哲学的諸学問のエンツュクロペディー要綱』(承前) II「自然哲学」第3部「有機体物理学」C「動物有機体」 〈自己運動〉の偶然性 文献 sakiya1989.hatenablog.com ヘーゲル『哲学的諸学問のエンツュクロペディー要綱』(承前) II「自然哲学…

ベンヤミン「暴力批判論」覚書(1)

目次 はじめに ベンヤミン「暴力批判論」 倫理的諸関係における〈暴力〉 文献 はじめに 以下ではヴァルター・ベンヤミン(Walter Bendix Schoenflies Benjamin, 1892-1940)の「暴力批判論」(Zur Kritik der Gewalt)を読む. ドイツ語の"Gewalt"には,「性…

ヘーゲル『エンツュクロペディー』覚書:「動物有機体」篇(1)

目次 はじめに ヘーゲル『哲学的諸学問のエンツュクロペディー要綱』 II「自然哲学」第3部「有機体物理学」C「動物有機体」 文献 はじめに 本稿ではヘーゲル『哲学的諸学問のエンツュクロペディー要綱』(Encyklopädie der philosophischen Wissenschaften i…

ヘーゲル『法の哲学』覚書:「家族」篇(4)

目次 ヘーゲル『法の哲学』(承前) 第三部「人倫」第一章「家族」(承前) 婚姻における自然性と精神性 文献 sakiya1989.hatenablog.com ヘーゲル『法の哲学』(承前) 第三部「人倫」第一章「家族」(承前) 婚姻における自然性と精神性 第161節 婚姻は,…

読書前ノート(11)小松原織香『当事者は嘘をつく』

小松原織香『当事者は嘘をつく』(筑摩書房、2022年) 目次 小松原織香『当事者は嘘をつく』(筑摩書房、2022年) はじめに 〈性暴力〉とは何か 「刑事司法の枠組み」から外れる〈性暴力〉 「彼」の発言と振る舞いの矛盾 ドーナツの「穴」のような「語り得(…