目次
ヘーゲル『論理の学』(承前)
第一版への序文(承前)
消えた「孤独者」
神学は,以前は,思弁的な秘儀や従属的ではあれ形而上学の弁護者であったのだが,この学問を感情や実践的通俗的なものや教え込まれた歴史的知識と引き換えに放棄してしまった.右の変化と一致して,もう一方では,永遠なものの瞑想とそれにのみ仕える生活が現実のものとなるよう——利益のためではなく祝福のために——民衆によって犠牲にされ世俗から切り離された孤高の士たちがいたが,彼らもまた消えてしまった.この消滅は,別の関連では,本質的に右に述べた現象と同じ現象と見なされることができる.
(Hegel1812: ⅳ-ⅴ,山口訳4頁)
ここでヘーゲルがいう「以前 in frühern Zeiten 」とは,一体いつの時代を指しているのであろうか.ボナヴェントゥラ(Bonaventura, 1221?-1274)やトマス・アクィナス(Thomas Aquinas, 1225-1274)といった神学者や,そして神秘主義者でもあるマイスター・エックハルト(Meister Eckhart, 1260-1328)らの時代を指しているのだろうか.しかし神学や神秘主義のような学問は「感情や実践的通俗的なものや教え込まれた歴史的知識と引き換えに放棄してしまった」のであり,そしていわゆる観想的生活に専心する「孤独者 Einsamen 」も消滅してしまったのだとヘーゲルは述べている.こうした思弁や観想的生活の消滅の背景には「同じ現象 dieselbe Erscheinung 」すなわち(前回見たような)当時の理論軽視・実践重視の風潮があるという.
(つづく)