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ルソー『社会契約論』覚書(9)

目次

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ルソー『社会契約論』(承前)

第一編第二章 最初の社会について(承前)

ルソーとダルジャンソン

*「公法についての学者的な諸研究は,しばしば,古くからの悪習の歴史にすぎない.そして,無理に研究しすぎると,的はずれに凝りかたまってしまう」(『隣国との関係におけるフランスの利益に関する論』,ダルジャンソン侯著,アムステルダム,ライ書店刊),これこそ正にグロチウスがおこなったことである.

Rousseau1762: 7,訳17頁)

ここでルソーは,ダルジャンソンを引きながら,グロチウスのことを「古くからの悪習の歴史」にすぎない「公法 droit public 」を「無理に研究しすぎ」て「的はずれに凝りかたまってしま」った人物だと言っているように思われる.

 ルソーは『社会契約論』の他の箇所でもダンジャンソンに言及している(『社会契約論』第二編第三章・第十一章).ところで,このダルジャンソンとは一体何者であろうか.永見瑞木(1980-)は次のように述べている.

ルネ=ルイ・ド・ヴォワイエ・ド・ポルミー,ダルジャンソン侯爵(René-Louis de Voyer de Paulmy, marquis d’Argenson, 1694-1757)は,18世紀前半に同時代フランスの社会制度を大胆に批判したことで知られる文筆家であり,政治家でもあった.(中略)オーストリア継承戦争時の外務大臣(1744-1747)として,あるいは同時代の回想録を残したことでも知られている.モンテスキューやフォントネルといった当代の知識人が集い,道徳や政治の改革論議が繰り広げられたランベール侯爵夫人のサロンや中二階クラブの常連であり,サン=ピエールやヴォルテールといった著名人と親交を持っていた.

永見2020:55〜56,強調引用者)

 ダンジャルソンの死後出版として『フランスの古今の統治についての省察』(Considérations sur le gouvernement ancien et présent de la France, 1764)という著作が刊行されている.ルソーによるダルジャンソンからの先の引用文は,この『省察』の中にそっくりそのまま見出される.しかしながら,ダルジャンソンの『省察』初版(1764)の公刊よりも先に,ルソー『社会契約論』初版(1762)の方が二年も早く出版されているのである.ルソーはどうやって公刊される前にダルジャンソンの原稿を読んだのであろうか.

 永見によれば,ダルジャンソンの原稿じたいは,すでに1737年頃には一応の完成を迎えていたとされる.そしてダルジャンソンはその後も原稿に修正を加えていた.その筆写本はいまでも五つ残されているという(永見2020).

 ルソーのような当時の知識人の間では,おそらくサロンなどを通じて,ダルジャンソンの筆写本が普及していたと考えられる.

d'Argenson1764: 13)

この一文は,ダルジャンソンの『回想録』(Mémoires)にも登場する.

d'Argenson1858: 370)

(つづく)

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