目次
ヘーゲル『法の哲学』(承前)
序言
「講義への手引き」としての『要綱』
この要綱を出版する直接のきっかけは,私が職務上おこなう法の哲学の講義への手引きを私の聴講者の手もとにあたえておく必要が痛感されたことである.哲学のこの部門についての根本諸概念は,私が以前に私の講義のために用意した『哲学的諸学のエンチュクロペディー』(ハイデルベルク,1817年)のなかにすでに含まれているのであるが,本教科書は,同じ根本諸概念をより大規模に,とりわけより体系的に詳論するものである.
(Hegel1820: ⅲ,上妻ほか訳(上)11頁)
『エンツュクロペディー』(初版,1817年)*1が出版されたのと同年,ヘーゲルはハイデルベルク大学で「自然法と国家学」という法哲学の講義を開いている(ヘーゲル2007).この「自然法と国家学」の講義録は「原-法哲学 Ur-Rechtsphilosophie 」(ヴァンネンマン手稿)とも呼ばれる.
そもそも『エンツュクロペディー』がすでに「要綱」なのだが,本書は「同じ根本諸概念をより大規模に,とりわけより体系的に詳論するもの」であるから,これはいわば要綱の中の要綱(Grundriss im Grundrisse)である.まるでマトリョーシカのような入子構造であるが,それによって解像度を上げるようにして事柄の細かい部分にまで立ち入ることができるようになっているわけである.
ヘーゲルの法哲学講義
ヘーゲルが大学で行った法哲学講義では,より具体的な事例に言及されることが多々ある.それゆえ,ヘーゲルの講義録は,ヘーゲルの哲学体系をより精確に理解するための恰好の材料となり得る*2.ヘーゲルの法哲学講義を受講した学生が記録したノートは多数伝承されている.その邦訳は以下の通りである.
- ヘーゲル 2000『法哲学講義』長谷川宏訳,作品社.
- ヘーゲル 2002『自然法および国家学に関する講義——1817/18年 冬学期講義,ハイデルベルク,1818/19 冬学期序説(付録),ベルリン——』法学部学生 P. ヴァンネンマン手稿,尼寺義弘訳,晃洋書房.
- ヘーゲル 2003『自然法および国家法——『法の哲学』第二回講義録 1818/1819年,冬学期,ベルリン——』C. G. ホーマイヤー手稿,尼寺義弘訳,晃洋書房.
- ヘーゲル 2005『ヘーゲル教授殿の講義による法の哲学Ⅰ『法の哲学』第五回講義録 1822/23 冬学期 ベルリン』H. G. ホトー手稿,尼寺義弘訳,晃洋書房.
- ヘーゲル 2006『法・権利・正義の哲学 『法の哲学』第五回講義録 1822/23 冬学期ベルリン』K. W. L. ハイゼ手稿,E. シルバッハによる編輯と序文,尼寺義弘訳,晃洋書房.
- ヘーゲル 2007『自然法と国家学講義 ハイデルベルク大学1817・18年』高柳良治監訳,神山伸弘・滝口清榮・徳増多加志・原崎道彦・平山茂樹訳,法政大学出版局.
- ヘーゲル 2008『ヘーゲル教授殿の講義による法の哲学Ⅱ『法の哲学』第五回講義録 1822/23 冬学期 ベルリン』H. G. ホトー手稿,尼寺義弘訳,晃洋書房.
- ヘーゲル 2009『『法の哲学』第四回講義録 1821/22 冬学期 ベルリン』キール手稿,尼寺義弘訳,晃洋書房.
- ヘーゲル 2020「ヘーゲル 最後の「法の哲学」講義(1831)——シュトラウス手稿——」D. F. Strauss筆記,尼寺義弘訳,阪南論集 人文・自然科学編,Vol. 55,No. 2.
ヘーゲルの死後,弟子のエドゥアルト・ガンス(Eduard Gans, 1797-1839年)がこれらのノートをもとに「補遺 Zusatz 」として編纂した『要綱』が,ベルリン版ヘーゲル全集には収められている(Hegel1833).
(『G・W・F・ヘーゲルの法の哲学の綱要,あるいは自然権と国家学の要綱』ガンス編,ベルリン,1833年)
文献
- Hegel, 1817, Encyklopädie der philosophischen Wissenschaften im Grundrisse, Heidelberg. (University of California, 2007)
- Hegel, 1820, Naturrecht und Staatswissenschaft im Grundrisse, Grundlinien der Philosophie des Rechts, Berlin. (University of Oxford, 2007)
- Hegel, 1833, Grundlinien der Philosophie des Rechts, oder Naturrecht und Staatswissenschaft im Grundrisse, hrsg. von Eduard Gans, in: Hegel's Werke, Bd.8, Berlin. (University of Michigan, 2013)
- ヘーゲル 2007『自然法と国家学講義 ハイデルベルク大学1817・18年』高柳良治監訳,神山伸弘・滝口清榮・徳増多加志・原崎道彦・平山茂樹訳,法政大学出版局.
- ヘーゲル 2019『ヘーゲル全集 第11巻 ハイデルベルク・エンツュクロペディー』山口誠一責任編集,知泉書館.
- ヘーゲル 2021『法の哲学 自然法と国家学の要綱』上妻精・佐藤康邦・山田忠彰訳,岩波書店.
- ぺゲラー編 2015『ヘーゲル講義録研究』寄川条路監訳,法政大学出版局.
- 寄川条路編 2016『ヘーゲル講義録入門』法政大学出版局.