まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

ヴィーコ『新しい学』覚書(6)

目次

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著作の観念(承前)

ヘラクレスとネメアの獅子

地球儀を取り巻いている黄道帯の中で、獅子と処女の二宮だけが、他の宮以上に堂々と、あるいはいわゆる遠近法にしたがって、姿をきわだたせているこれは、これは、このがその諸原理のうちでまずもってはヘラクレス観照するということを表示しようとしている。古代の異教諸国民はいずれもがそれぞれ自分たちを創建したヘラクレスなる存在について語っているのが見いだされるからである。それも、かれをその最大の功業、すなわち、口から炎を吐き出してネメアの森に火を点じた獅子を殺したという功業の面から観照するということを表示しようとしているのであって、この獅子ので飾られてヘラクレス星辰にまで高めあげられたのであった。ここ〔本書〕では、その獅子地上を覆っていた古代の森林であったことが見いだされるのであり、この大森林にヘラクレスを発生させて、これを耕地に変えたわけで、かれは戦争の英雄たち以前に出現していたにちがいない政治の英雄たちを象徴する〔詩的〕記号であったことが見いだされるのである。

(Vico1744: 2-3, 訳: 上19〜20頁)

このパラグラフを読みこなすためには、ギリシア神話のエピソードに通じている必要があります。とはいえ、私自身、ギリシア神話については全くと言っていいほど知識がありません。そこで以下では、ギリシア神話について調べながら書き綴っていきます。

 ヴィーコ『新しい学』の扉絵にの地球儀には、本文で述べられている通り、「獅子と処女」の姿が描かれています。「これは、この学がその諸原理のうちでまずもってはヘラクレス観照するということを表示しようとしている」。ですが「獅子と処女」がヘラクレス観照を意味しているとは一体どういうことなのでしょうか。

 ヘラクレス*1は十二の功業を成し遂げたという伝説があり*2、その功業の一つが「ネメアの獅子退治」として知られています。ネメアの獅子(Νεμέος λέων)とは、「ネメアの森 Selva Nemea 」に生息していた人食いライオンのことです。

……エウリュステウスは彼に命がけの冒険をつぎつぎにさせました。それが世にいわゆる『ヘラクレスの十二の仕事』であります。

 まず一番はネメアの獅子との戦いでありました。ネメアの谷は一頭の恐ろしい獅子のために荒らされていました。エウリュステウスはヘラクレスにその怪物の毛皮を持って来いと命じました。ヘラクレス棍棒や矢で向ってもだめだとわかると、手づかみにして獅子を締め殺しました。そうして死んだ獅子を肩にかついで帰って来ました。エルリュステウスはその有りさまを見て、ヘラクレスの人並み優れた力を空恐ろしく思いました。

ブルフィンチ1978: 196)

 また「しし座」のモデルはヘラクレスが倒したこのネメアの獅子であり、このことをヴィーコは「…獅子を殺したという功業の面から観照するということを表示しようとしているのであって、この獅子の皮で飾られてヘラクレスは星辰にまで高めあげられた」と述べているわけです。

 さて、ヴィーコのテクストでひとつ気になるのは〈火炎〉の位置づけです。ネメアの獅子を倒すことで「ヘラクレス Ercole 」は「英雄 Eroi 」として表象されました(両者の音の近さはヴィーコ的に関係あるかもしれません)。「ここでは、その獅子は地上を覆っていた古代の大森林であったことが見いだされるのであり、この大森林にヘラクレスは火 fuoco を発生させて、これを耕地に a coltura 変えたわけで、かれは戦争の英雄たち以前に出現していたにちがいない政治の英雄たちを象徴する〔詩的〕記号であったことが見いだされる」。もしかするとネメアの「獅子」や「古代の大森林」は未開の野蛮な自然状態のことを表していて、これをヘラクレスが「火」でもって「耕地に変えた」ということは、文明化された社会状態への移行を意味しているのではないでしょうか。 

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文献

*1:ヘラクレスというのは、実際には、功業という相貌のもとでとらえられた諸民族の建設者の詩的記号なのだ。」(ヴィーコ2018: 上123)。

*2:「女神ヘラは、テーバイの、すなわちギリシア人のヘラクレスに(というのも、さきに「公理」において述べたように、古代の異教諸国民はすべて、その国民を創建したそれぞれのヘラクレスをもっていたからである)大いなる難業に立ち向かうよう命じる。なぜなら、婚姻をともなった敬虔こそはすべての偉大な徳の最初の基礎が学ばれる学校であるからである。そしてヘラクレスは、かれがその前兆によって生みだされたゼウスの庇護を得て、それらの難業をすべて克服する。そこから、かれはヘラクレス〔Ηʹρακλῆς〕と呼ばれたのであって、これは〈ヘラス・クレオス〉Ἥρας κλέος〔Ηʹρακλείς〕、〈ヘラの栄光〉という意味なのである。」(ヴィーコ2018: 上441)。