まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

アリストテレス『政治学』覚書(3)

目次

sakiya1989.hatenablog.com

アリストテレス政治学』(承前)

アリストテレスの分析的探究方法

いま述べたことは、これまで私たちを導いてきた探究方法に従って考察すれば明確になるだろう。すなわち、国家以外の事物であっても、要素の結合から成る場合は、結合されていない要素へと分ける必要がある(すなわち、分けられた要素が、全体を構成する最小の部分である)。同様に国家の場合も、[市民や奴隷などの]構成要素について考察すれば、それらの要素同士がどう異なるかということ、また、先に述べた国家の支配、王国の支配、家の中の支配、主人の奴隷に対する支配のそれぞれについて、支配者が持つべき何らかの支配術を得られるかどうかということも、いっそうよく見えるようになるだろう。

(Aristoteles1540: 2; 三浦訳(上)24頁)

ここでアリストテレスは自身の分析的な探究方法について述べている。すなわち、事物をその構成要素から考察するという主張がそれである*1。加えて、事物の構成要素は、その事物の性質に応じて、その構成要素の性質もまた異なるものである、とアリストテレスは考える。このことは、化学物質に例えるとわかりやすいかもしれない。水とダイヤモンドでは、その物質を構成する要素が異なっている。水は水素Hと酸素O、ダイヤモンドは炭素Cから成るからである。これと同じように、国家と家族とでは、その構成要素の性質が異なっているから、それぞれが異なった支配のかたちを持つことになる。

sakiya1989.hatenablog.com

文献

*1:マルクス(Karl Marx, 1818-1883)は『資本論』(Das Kapital, 1867)の中で、「商品」を資本主義社会の富の「要素形態 Elementarform」として分析している(拙稿「マルクス『資本論』覚書(3)」参照)が、マルクスがこのように近代以前の社会と区別する資本主義社会に固有の要素として「商品」を取り上げて分析する方法は、アリストテレスがここで述べた分析的方法に似ている。マルクスにはしばしばアリストテレスの影響がしばしばみられるが、この点について詳しくは石井2002を参照されたい。