目次
アダム・スミス『国富論』(承前)
序論および本書の構想(承前)
供給の良し悪しを決めるもの
したがって,この生産物またはそれで購入されるものの,これを消費するはずの人々の数にたいして占める割合が大きいか小さいかにおうじて,国民が必要とするすべての必需品と便益品が十分に供給されるかどうかが決まるであろう.
(Smith1789: 1,大河内ほか訳およびガルヴェ訳)
前パラグラフでスミスは「この必需品と便益品は,つねに,労働の直接の生産物であるか,またはその生産物によって他の国民から購入したものである」と述べていた.このことを図示すると以下のようになる.
ここで注意しなければならないのは,この供給の良し悪しは,その国民の数ではなく,「消費する人間の数」(ユーザー数)に依存しているという点である.例えば,世の中には喫煙者もいれば禁煙者もいるように,喫煙者は総人口と同じではない.喫煙者が少なく禁煙者が多いとすれば,たばこは潤沢にあることになるだろうし,逆もまた然りである.このように供給の良し悪しを決める要因の一つは,総人口というよりはむしろその消費者の数なのである.
文献
- Smith, Adam, 1789, An Inquiry Into the Nature and Causes of the Wealth of Nations, Vol.Ⅰ, the fifth edition, Dublin. (Harvard University, 2007)
- Smith, Adam, 1794, Untersuchungen über die Natur und die Ursachen des Nationalreichtums, Erster Band, Aus dem Englischen der vierten Ausgabe neu übersetzt, Breslau. (Harvard University, 2007)
- スミス,アダム 2020『国富論』大河内一男監訳,中央公論新社.