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グローティウス『戦争と平和の法』覚書(2)

目次

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グローティウス『戦争と平和の法』(承前)

プロレゴーメナ

グローティウスの体系性

ローマの国法であれ,その他いずれかの国の法であれ,国家の法〔ius civile〕を註解によって説明しようとした者,あるいは要約して提示しようとした者は少なくない.これに対して,多くの諸国民の間もしくは諸国民の支配者たちの間に存在する法については,それが自然そのものに由来するものであれ,あるいは神の法によって定められたものであれ,あるいは慣習や黙示の含意によって導入されたものであれ,これに取り組んだ者はわずかである.まして,これを包括的に,また一定の順序に従って論じた者は.いままでのところ一人もいない.しかしながら,もしこれが実現されるならば,それは人類全体の利益となるであろう.

Grotius1646: [1],渕2010:262)

ここには大きく分けて二つの「法 ius 」がある.一つが「国法 ius civile 」*1であり,もう一つは「多くの国民の間もしくは国民の支配者たちの間に存在する法」である.今風の言い方をするならば,前者を国内法,後者を国際法と言い換えられるのではないか.さらにグローティウスは法の種類として(いわば法源の相異に従って),自然法*2,神の法*3,慣習法の三つに分けていることがここから伺える.

 なるほどここでグローティウスが述べようとしているのは,この著作の意義である.国際法に関して「これに取り組んだ者はわずかである」というのだから,全く居なかったわけではないのであろう.しかしながら,「これを包括的に,また一定の順序に従って論じた者は.いままでのところ一人もいない」と述べている通り,グローティウスはまさに本書で先陣を切って国際法をいわば一つの体系として取り纏めることに主眼を置いていたと言えるであろう.実際,本書の持つ体系性は,プーフェンドルフ,スピノザライプニッツ,ヴォルフなど,後世に多大な影響を与えたのである(山内2018:419).

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文献

*1:「国法」についてグローティウスは本書第一巻第一章ⅩⅣで次のように述べている.「国法とは,国家的権力〔potestas civilis〕に由来する法である.国家的権力とは,国家を支配ないし管理する法である.また,国家とは,自由な人間からなる完全な団体である.」(Grotius1646: 6,渕2011:245).

*2:自然法」についてグローティウスは本書第一巻第一章Ⅹで次のように述べている.「自然法は正しい理性の命令である.それは,ある行為が[人間の]理性的な本性そのものに合致しているか,あるいは合致していないかということに基づいて,その行為が道徳的に恥ずべきものであるか,あるいは道徳的に必要なものであるかを示し,したがってまた,そのような行為が自然の創造主である神によって禁止されているのか,あるいは命じられているのか,ということを示している.」(Grotius1646: 4,渕2011:235).

*3:「神法」についてグローティウスは本書第一巻第一章ⅩⅤで次のように述べている.「神意法〔ius voluntarium divinum〕とはなにか.われわれは,それを,その言葉の響きそのものから十分に知ることができる.それは,もちろん,神の意思に起源をもつ法のことである.そして,この法は,神の意思を起源とするという違いによって,自然法(ちなみに,われわれは,先に,自然法は神法と同じだということができるといったのだが)と区別される.また,この[神意]法については,アナクサルコスがきわめて漠然と語った次の言葉,すなわち「神は,それが正しいがゆえに欲するのではなく,神が欲するがゆえに,それが正しいとされる.すなわち,それが法によって義務づけられるのである」という言葉があてはまる,ということができよう.」(Grotius1646: 7,渕2011:246).