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〔翻訳〕ニコラス・バーボン『より軽い新貨幣の鋳造に関する論究』(4)

目次

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ニコラス・バーボン『より軽い新貨幣の鋳造に関する論究』(承前)

富、および諸事物の価値について(承前)

「内在的価値」の行方
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 身体の諸欲求を満たし、生活を支える諸事物は、実在的で自然的な価値を有していると勘定されてもよいであろう。それらの諸事物はいつでもどこでも価値の属するものである。そしてもしおのれ自身のうちに内在的価値を有している諸事物があるならば、それらは畜牛とトウモロコシであろう。故に、賎民は家畜を数え上げるPauperis est numerare pecus〕という諺によると、古代の時代には富の計算は畜牛の数によって行われていたのである。

(Barbon1696: 3-4)

ここから「内在的価値 Intrinsick Value 」をキーワードとした議論に軸足が移っていく。

 Pauperis を「賎民」と訳したが、山下太郎によれば「家畜を数えるのは貧乏人の性分である Pauperis est numerare pecus 」という一文は、オウィディウス『変身物語』(Ovidius, Metamorphoses, Lib. ⅩⅢ: 824)に認められる*1

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 金と銀には実在的な内在的価値があり、それらはひとえに富や財宝と見做されるべきだ、という意見もある。

(Barbon1696: 4)

ここで取り上げられている「意見 opinion 」は、バーボン自身のものではない。金と銀とはいわば奢侈品であり、 先に考察された「身体の諸欲求を満たし、生活を支える諸物」とは異なり、むしろ「精神の諸欲求」を満たすものであるからである。

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文献

*1:山下太郎のラテン語入門「Pauperis est numerare pecus.」(2014年3月30日)。オウィディウス『変身物語』の新訳が、ちょうど昨年から今年にかけて刊行されている(オウィディウス2020)。