目次
スピノザ『エチカ』(承前)
第一部 神について(承前)
「物」と「実体」
【定理三】では共通点と因果の関係について述べられている.
定理三
相互に共通点を有しない物は,その一が他の原因たることができない.
証明
もしそれらの物が相互に共通点を有しないなら,それはまた(公理五により)相互に他から認識されることができない,したがって(公理四により)その一が他の原因たることができない.Q.E.D.
(Spinoza1677: 3,畠中訳(上)40頁)
ここで述べられている「相互に共通点を有しない物 res 」とは,一見すると【定理二】で述べられている「異なった属性を有する二つの実体」のことかと思うかもしれない.だが,これまで「実体」が「物」だとは一言も述べられていない.したがって,この「物」を「実体」と解釈してもよいのかどうか, 注意が必要である.
この証明で参照されている【公理四】と【公理五】を見てみよう.
【公理四】
結果の認識は,原因の認識に依存し,かつこれを含む.
【公理五】
互いに共通点を持たないものは,また互いに他から認識されることができない.すなわち一方の概念は他方の概念を含まない.
(Spinoza1677: 2,畠中訳(上)39頁)
公理では「物 res 」はまだ登場していない.公理では「実体」にも「物」にも適応可能な,より抽象度の高い記述がなされていたのである.
Q.E.D.
Q.E.D.とは"Quod erat demonstrandum"の略である.これは訳注にも書いてあるように「これが証明されるべきことであった」という意味である.【定理三の証明】からQ.E.D.が付けられているのだが,以前の定理の証明にQ.E.D.が付いていなかったのは何故だろうか.以前の定理の証明にQ.E.D.をただ付け忘れていただけでないとすれば,そこには実質的な違いがあるはずである.