目次
スピノザ『エチカ』(承前)
第一部 神について(承前)
〈実体〉=〈神〉を自然物や人間の本性と類比的に捉えてはならない
備考二
事物について混乱した判断をくだし・事物をその第一原因から認識する習慣のないすべての人々にとって,定理七の証明を理解することは疑いもなく困難であろう.なぜなら彼らは実体の様態的変状と実体自身とを区別せず,また事物がいかにして生ずるかを知らないからである.
(Spinoza1677: 5,畠中訳(上)43頁)
どうして一般の人々にとって【定理八】を理解するのが難しいのか.それは,定理八の命題が推論によって理解されうるような論理的帰結として示されているからである.換言すれば,その論理を追うことができるものだけが理解できるような命題だからである.
この結果として彼らは,自然の事物に始原があるのを見て,実体にも始原があると思うようになっているのである.いったいに,事物の真の原因を知らない者は,すべてのものを混同し,またなんら知性の反撥を受けることなしに平気で樹木が人間のように話すことを想像し,また人間が石や種子からできていたり,任意の形相が他の任意の形相に変化したりすることを表象するものである.
(Spinoza1677: 5,畠中訳(上)43頁)
ここで退けられているのは,〈実体〉を〈自然の事物〉に擬えて理解しようとする
同様にまた,神的本性を人間的本性と混同する者は,人間的感情を容易に〈神〉に附与する.特に感情がいかにして精神の中に生ずるかを知らない間はそうである.
(Spinoza1677: 5-6,畠中訳(上)43頁)
「人間的感情」について詳しくは本書「第三部 感情の起源および本性について」に譲らざるを得ないが,要するに『人間との類比によって〈神〉を捉えてはならない』というのがスピノザの首尾一貫した主張である.
(つづく)