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ヘーゲル『論理の学』覚書(3)

目次

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ヘーゲル『論理の学』(承前)

第一版への序文(承前)

カント批判哲学以前の伝統的形而上学

 この時代より前に形而上学と呼ばれたものは,いわば根こぎにされ,学問の系列から消失してしまった.かつての存在論,合理的心理学,宇宙論,或いは以前の自然神学ですら,その声はどこかでまだ聞かれようか,また聞くことができようか.例えば,霊魂の非物質性,機械因,目的因についての探求は,どこかでなお関心を持たれているだろうか.神の存在についてのそれ以外の証明も引用されることはあるが,ただ歴史的にのみであるか,教化と情緒の昂揚のためにすぎない.

(Hegel1812: ⅲ,山口訳3頁)

前回みたように,ヘーゲルは〈形而上学〉の転換点をカント批判哲学のうちに看取している.すなわち「学としての形而上学はいかにして可能か」を問いただしたカントによって,「いわば根こぎにされ,学問の系列から消失してしまった」ことになろう.

 「かつての存在論,合理的心理学,宇宙論,或いは以前の自然神学」という諸分野は,現在の我々にとって聞き慣れないものであるが,これらの分野は「伝統的形而上学」の区分であったとされる.クリスティアン・ヴォルフ(Christian Wolff, 1679-1754)によって整序された形而上学体系は,バウムガルテン(Alexander Gottlieb Baumgarten, 1714-1762)の形而上学体系のうちに摂取され*1,そしてカントは自身の『形而上学講義』でバウムガルテンの『形而上学』を批判的に採用した.

カントが四十数回に及ぶ形而上学の講義テクストとして,常にバウムガルテンの『形而上学』(Metaphysica, 1739)を使用したことは周知の通りである.このいわゆる伝統的形而上学は,存在論宇宙論,心理学および「自然神学」(Theologia naturalis)に区分されている.カントも『形而上学講義』において,バウムガルテンの区分を踏襲し,「存在論」,「宇宙論」,「心理学」および「合理的神学」(Die rationale Theologie)の四つに分けて講義を進めている.

近藤1986:141)

 なおヘーゲルが例として言及しているのは,いわゆる「霊魂論」および「神の存在証明」*2である.『論理の学』第1版(1812年)刊行時点でこれらのトピックに関する議論があまり聞かれなくなったという時代状況がヘーゲルの叙述から窺える.

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文献

*1:この点について詳しくは井奥2020を参照のこと.

*2:「神の存在証明」について詳しくはヘンリッヒ2012を参照のこと.