まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

CoinMinerによる利用が懸念されるIoT

先週話題になったのはWannaCryというランサムウェアでしたが、私が個人的に思考を駆り立てられたのはAdylkuzzというマルウェアについてでした。

ascii.jp

tocana.jp

 Adylkuzzについては上の記事を読んでいただければと思いますが、簡単に説明すると、これは人のパソコンに勝手に侵入してMoneroという仮想通貨のマイニング(発掘)を行ってハッカー自身に送金するウイルスのことです。この手のウイルスはCoinMinerと呼ばれています。

 このAdylkuzzというウイルスに触発されて、少し前から自分が思っていたことをこの機会に書き留めておきます。

 『攻殻機動隊』についてはすでに知っている人が多いかと思います。アニメ第二期の『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』にクゼ・ヒデオというテロリストが登場します。クゼは預金システムで人が気づかないような小数点以下のお金を集めて資金調達を行なっておりました。まさに「塵も積もれば山となる」の諺通り、クゼはプログラムによって1円未満の超少額のものをかき集めて莫大な資金へと変えたのです。

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クゼ・ヒデオ:端末のデータにも通常表示されない小数点以下の数字、そのわずかな何銭かの金額を、ネット上の口座から徴収するだけで1日数千万単位の金額になる。そいつが俺の架空の銀行に振り込まれるようプログラムを組んだんだ。……一般人は自分の口座に小数点以下の預金があることなど知りもしない。銀行も今や口座の管理はすべてAI任せだ。(攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG 第20話「北端の混迷 FABRICATE FOG」2004年)

 似たようなことが今後、IoTを通じて起こるのではないかと私は考えています(といっても方法は異なりますが)。IoT一つ一つに搭載されたプロセッサ(CPU)の処理能力は本当にごくわずかなものかもしれません。しかし、ハッカーが人々の生活の背後で、人々の生活圏のIoTを乗っ取り、マイニングを行うことで、仮想通貨で莫大な資金を調達することも可能となるかもしれません(これは単なる可能性ではなく、Adylkuzzのケースによって既に現実的だと言えます)。社会全体のIoTを使って分散処理させることで、スーパーコンピューターの処理能力をはるかに凌駕することも可能かもしれません。さらに恐ろしいのは、ハッカーが全国のIoTを掌握して、ブロックチェーン全体の50%以上の処理能力を手にした時でしょう。

 したがって、IoTのセキュリティの重要性は決して軽視されるべきものではないと私は考えています。

 

(2017.05.23追記)記事UP後にネットで調べたところ、上述の懸念は既にSymantec社レポート「IoT(モノのインターネット)のセキュリティ問題」(2015年)に記載されていました。

「攻撃者がIoTデバイスを攻撃して利益を得る手段を見つけるのは時間の問題と言えます。接続されたトースターが暗号通貨を発掘したり、スマートTVがマルウェアによって金銭要求のために悪用されたりするようになるかもしれません。」(Mario Ballano Barcena & Candid Wueest「IoT(モノのインターネット)のセキュリティ問題」Symantecセキュリティレスポンス、2015年、14頁)

 

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【読書メモ】マーク・ジェフリー『データ・ドリブン・マーケティング』

マーク・ジェフリー『データ・ドリブン・マーケティング』(ダイヤモンド社、2017年)を読んでみた。

 邦訳の180頁にこんなくだりがあった。

 ジェフリーは携帯電話が故障してしまったため、朝早くケータイショップに行ったが、店員は「45分待ちです」と譲らず、「すぐに空港に向かわなければならない」といっても対応してもらえなかったため、後日家族全員のケータイ・固定回線もろとも解約し、他キャリアに移ったという。ジェフリーは、店員が平等に顧客に接することに問題があると考える。むしろ優良顧客は優先して対応すべきだ、というのがジェフリーの主張である。

 ジェフリーは、自分の主張が単なるわがままと思われないように数字上の裏付けを持ち出す。「上位8%のB2B顧客群が、全体の売上の93%を占めている」のだから、優良顧客は大事にすべきだ、とジェフリーは考える。それゆえ、自分はその優良顧客に属するはずなのに、優遇されなかったという不満をジェフリーはほのめかしているように読み取れる。

 ジェフリーの説明には二つの問題点がある。

 第一に、ジェフリーがB2Cのケースに対してB2Bの数字を持ち出している点である。「上位8%の顧客群が、全体の売上の93%を占めている」というB2Bの数字は、B2Cのケースで考えると現実味がない。別の箇所では、ある携帯電話会社では「18%の顧客によって55%の価値がもたらされている」(邦訳185頁)と説明されており、こちらの数字の方がまだB2Cのケースを説明するのに説得的である。

 少なくともここでジェフリーが主張したいのは、「顧客生涯価値」(CLTV)の分布において「80対20の法則に近い現象が起こっている」(185頁)のであって、要するに一部の優良顧客がCLTVの大半を占めているのだから、優良顧客は大事にしようということである。この主張自体に異論はないし、もっといえば「総CLTV」を増やすことこそが重要であるといえる。このことをジェフリーは「自社の顧客全体のCLTVを理解し、その最大化を図るのが新たなマーケティング戦略の手法だ」(206頁)と表現している。ジェフリー自身は本書で「総CLTV」という言い方をしておらず、私が勝手に導入した概念であるが、「総CLTV」とは高価値・中価値顧客群のプラスも低価値顧客群のマイナスも含めて全てのCLTVの総計のことである。「総CLTV」は186頁の図表6.3のCLTV分布を積分したものである。「総CLTV」を増大させるためには、高価値顧客群のCLTVを維持するだけでなく、中価値顧客群のCLTVを増大させ、低価値顧客群を減少させることが効果的であることが、ジェフリーの説明から読み取れる。

 第二に、ジェフリーは、店員が平等主義を捨てて優良顧客を優先することによって、先に並んでいた顧客のクレームが発生し、クレーム対応に時間を消耗するという可能性を考慮していないように思われる。というのも、店員は、先に来ていた顧客に「なぜ後から来た顧客を優先的に対応するのか」を説明しなければならなくなるかもしれないからだ。 

 

 では、店に入った時にその顧客が「優良」かどうかを見極め、優先的に対応するにはどうしたらいいだろうか。

 

 まず前提として、顧客一人一人のCLTVを算出し、リアルタイムで参照することができる仕組みを作ることが必要である。

 しかし、仮にジェフリーよりも先に来ていた客がジェフリーと同等のCLTVである場合には、来客した順番で対応せざるを得なくなり、結局ジェフリーを優先して対応する理由はなくなる。

 だとすれば、むしろ本当に必要なのは、来店時の「お急ぎ」のサインかもしれない。例えば、来店時の発券ボタンに「お急ぎですか?」「はい・いいえ」の選択肢を設ける。あるいは、Amazonプライムのように多少多く年会費を払って「お急ぎ便」のような優先サービスを利用可能にするのはどうだろうか。とはいえ、もちろんこれも全員がプライム会員になってしまえば、皆同じ条件になってしまうのだが。

 

 次に、CLTVをリアルタイムで参照できるようにしたとして、優良顧客かどうかを入店と同時に即座に判別するにはどうしたら良いだろうか。技術的には次の案が考えられる。

 

(案1)入り口で機械にスマホをかざす。

 スマホから支払い状況を確認する。しかし、これはスマホが壊れていたりバッテリー切れの状態だと対応できない可能性が高い。

 

(案2)顔認証システムを導入する。

 これはセキュリティ対策にもなる。導入コストが抑えられるならば可か。「マイノリティ・リポート」(トム・クルーズ主演、2002年)の世界になりそうだ。

 

 以上のやり方で、入店と同時に「優良顧客」だと判明し、待ち時間なしに対応してもらえたとする。しかし、実際には端末の故障を確認し、代替機と交換するにも時間がかかる。その場合でも、優良顧客は「交換するのにいつまで待たせるんだ」と言い始めかねない。

 そうすると、店舗での交換以外に何か対応する方法はないだろうか。

 

(案3)予備の端末を携帯する。

 優良顧客には、メイン端末にさらに予備としてもう一台端末を携帯していただくことが望ましい。メイン端末が壊れても、予備の端末はSIMカードを差し替えるだけですぐ使える。データはクラウドでバックアップしたものを読み込んでいただければ良いだろう。もちろん売上の大半を占める「優良顧客」なのだから、予備の端末は割引価格で事前に購入できる。これでわざわざ待ち時間の長い実店舗に足を運んでいただく必要もなくなり、解約される可能性も減るだろう。予備の端末の事前購入によって、販売台数も増えてwin-winである。マーケティングの観点からすれば、これが正解だろう。

 

「ジャパニーズテクニウム展 by 落合陽一とデジタルネイチャーグループ」に行ってきた。

今日は「ジャパニーズテクニウム展 by 落合陽一とデジタルネイチャーグループ」に行ってきました!

about.yahoo.co.jp

「ジャパニーズテクニウム展 by 落合陽一とデジタルネイチャーグループ」は、東京ガーデンテラス紀尾井町にあるヤフーのオフィス内で開催中です。

このビル↓の18Fです!永田町駅から徒歩10分ぐらいでしかも入場無料!これは行くしかない!

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ちなみに近くにはこんな立派な建物↓がありました。標識にYahoo!って書いてある!

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エレベーターに乗ってイザ18Fに突入。入り口で「けんさくとえんじん」が出迎えてくれました!このキャラクター初めて知った(笑)

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受付を済ませて展示コーナーへ。

 

おっスゲエ!蝶々が羽ばたいている!「バタバタ…バタバタバタバタ!」みたいな感じです(見た人はわかる)。「コロイドディスプレイ」というそうです。

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粉が宙に浮く「ピクシーダスト」。実際に上から粉を落とすんですが、これかなり面白いですよ。写真じゃ見えない(笑)

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おおっ!球体が回ってる!これが噂のアレですよ!「レヴィトロープ」ですね!

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驚いたのが、展示コーナーのすぐ隣の机では、いろんな人が会議とか普通にしてたことですね。あそこで仕事している人たちが集中できるのか、逆に気になってしまいました。ちなみに、帰り際にSTAFF ONLYの道に迷い込んで警備員さんがやってきて注意されたのが僕だというのはここだけの話です。

『税大講本』『税大論叢』『税大ジャーナル』

租税について調べていたら、ネットで『税大講本』という資料を発見しました。

『税大講本(租税大学校講本)』とは税務大学校で研修に使う教科書のようです。これは国税庁のホームページからDLできます。

税大講本|税務大学校|国税庁

体系的で詳細な資料であるという点で非常に良いですし、何よりPDFで読めるのが有り難いです。

(余談ですが、法学系の教科書、いわゆる基本書などは、法改正に伴って毎年改訂されるので、紙の書籍よりも電子書籍の方が向いていると言えそうです。) 

 

以下は自分用メモです。

バックナンバー(税大論叢)|研究活動|税務大学校|国税庁

税大ジャーナル バックナンバー|研究活動|税務大学校|国税庁

上記『税大論叢』と『税大ジャーナル』の一部の論文はPDFで閲覧できますが、ほとんどの論文は要旨のみ公開されています。

租税と国家権力

 最近、僕は「租税」について考えています。僕にとっては新しいテーマです。「租税」についてはあまり考えたことがなかったので、結構疲れます。

 消費税やらナントカ税やら、もはや税を支払うことが習慣化していて、僕自身、租税そのものについてあまり考えていなかったり、税を払うことは当たり前のこととして思考停止していました。

 しかし、「租税」は個人であれ法人であれ、多少なりとも全員が関わる事柄なので、もっとよく考える必要があると思います。

 「租税」は広いテーマです。「租税」は国家権力そのものだと思います。租税収入なくして国家権力は存在し得るでしょうか。国家権力は租税収入を頼りにしています。「租税」が国家権力を支えているのです。それゆえ、租税の歴史は国家権力の歴史と同じぐらい古いのではないでしょうか。

 

 とりあえず、Amazonで注文したのが下の二つ。

諸富徹『私たちはなぜ税金を納めるのか 租税の経済思想史』新潮選書、2013年

シュムペーター『租税国家の危機』岩波文庫、1983年

 

自分のパーソナリティー

 有名な『孫子の兵法』に「彼を知り己を知れば百戦殆からず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆し」(『孫子謀攻篇』)とあります。また西洋哲学の伝統が「汝自身を知れ」から始まったように、「自分自身を知る」ことの重要性は古くから認識されてきました。

 しかし、正直なところ、自分のパーソナリティーについては、僕自身しっかり把握できていません。過去にリクルートの性格診断のようなものをやったことがありますが、確かその時は「あなたは研究職向き」みたいに出てきました。そういう診断はやってみた時は「ふーん、そうなのか」と思うのですが、後に残るものが感じられません。

 どちらかといえば、自分のパーソナリティー(あるいは自分の行動特性)は、自分で発見していくのがベストな気がします。というのも、自分でも気づかなかった自分(潜在的に存在するが認識されていない状態、これをヘーゲル哲学ではan sichと言います)を発見し認識できた時(このような自覚的な状態を、ヘーゲル哲学ではfür sichといいます)は、ちょっとだけワクワクするからです。

 このブログを書いてみて、自分の能力的にそこまで深く考えることができないという自覚はあるものの、自分は物事を考えるのが好きなのではないかと思いました。あとは書くことも好きですね。本(を読むこと)も好きです。このようなパーソナリティーをなんと形容したら良いでしょうか。

 おそらく読書家で、沈思黙考の物書きを、人は「内向的」と呼ぶのではないでしょうか。しかし、読書への欲望は必ずしも自分に関心があるわけではなく、他者への関心から沸き起こるものです。沈思黙考も、思索の対象は自分自身ではなく、およそ自分にとって外的なものに向かっているわけです。このようなパーソナリティーは「社交的」ではないにせよ、(興味関心が外に向かっているという意味で)「外向的」と呼べなくもなさそうです。したがって、単純に「外向的/内向的」という二分法に当てはめることは、実際のところは、かなり難しいと思われます。

 では、「外向的/内向的」がダメなら「社交的/非社交的」と呼べばいいのかというと、それもまた難しい問題です。人に関わりを持とうとする「外向的」な人が必ずしも「社交的」ではない(むしろ場合によっては「非常識」ですらある)からです。

 以上、特にまとまっていないのですが、人間のパーソナリティーには様々な要素が複合的に絡み合っているため、安易な二分法や単純化は避けた方が良さそうです。

その質問、必要ですか?

 昔、採用面接で「どんなときに嬉しいと感じますか?」という質問を受けたことがある。僕がこの質問にどう答えたかについては、ここでは置いておくことにする。

 そのとき、僕には「嬉しい」という個人的な感情について面接官が質問したことの意図が全く理解できなかった。仕事において重要なのは感情ではなく理性だと僕は考えているからだ。思い出すと、面接官に「その質問、必要ですか?」と言ってやりたい気分に駆られる(もちろん口に出しては言わないが)。

 もちろん仕事に感情が不要だということではない。「嬉しい」というポジティブな感情が、仕事になんらかの影響(それが良い影響か悪い影響なのかはわからない)を与えるかもしれない。だが、その場合には逆もまた然りであり、ネガティブな感情が仕事になんらかの影響を与えると考えるべきだろう。

 例えば、理性的な判断を欠いて失言することで、多少なりとも墓穴を掘ることになった政治家を何人か知っているだろう。理性ではなく感情に基づく判断と行動には危険がつきものなので、僕の中では感情に優先権を持たせないように重々注意を払っている。

 とはいえ、現代には感情に基づく判断や行動を促進するシステムが氾濫している。これを「感情システム」と呼ぼう。「今だけ!」のように限定感を持たせるタイムセールや数量制限や、口臭対策商品のCMでよく利用される不安訴求は、「感情システム」をセールスに上手く利用している一例である。

 またFacebookの「いいね」やTwitterの「♡」も「感情システム」の典型例であると言えるかもしれない。「いいね」や「♡」をもらうと人は嬉しいと感じるので、うまくいけばそのSNSをやめようとは思わないだろう。SNS疲れという問題もあろうが、これは利用の仕方に慣れてくれば緩和される。SNSについてはまだあまり考察できていないので、この辺で書くのをやめておく。

 こういう感情システムを商品やセールスに組み込むことで売上を伸ばすのは、セールスの立場からすれば理性に基づく行動かもしれないが、自分が感情システムの中に巻き込まれてしまうのは好ましくないと思う。