まだ先行研究で消耗してるの?

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「マンスプレイニング」について──レベッカ・ソルニット『説教したがる男たち』を中心に

はじめに

 今回は「「マンスプレイニング」について──レベッカ・ソルニット『説教したがる男たち』を中心に」というタイトルで書きたいと思います。

 皆さんは「マンスプレイニング」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「マンスプレイニング」とは、男性を意味する「man」と、「説明すること」を意味する「explain」をかけ合わせたかばん語です。この言葉は2008年以降に使用されたとみられています。

マンスプレイニングとは何か──ソルニットの違和感

 Googleで「マンスプレイニング」を検索してみると、「男性が、女性を見下すあるいは偉そうな感じで何かを解説すること」を意味する言葉として解説されています。

 「マンスプレイニング」という言葉ができたのは最近のことです。レベッカ・ソルニットによれば、2008年4月にソルニットが書いたオンライン記事のエッセイが広く読まれたことがきっかけとなり、後に「マンスプレイニング」という語が使用されるようになったといいます。ただし、「マンスプレイニング」という語そのものは、ソルニット自身が考案したものではないと本人は述べています。

エッセイが公開された直後に「マンスプレイニング」(mansplaining)という語も使われ出した。私が考え出した語だと言われることもあるが、実はまったくかかわっていない。エッセイと、それを具現化した〔そのアイデアを体現した〕ような男たちがインスピレーションになっているのは確かだが(個人的にはどうもしっくりこない語なので〔私はその語に疑念を抱いているし〕、自分で使うことはあまりない。「マンスプレイニング」だと、説教したがるのは男の内在的な欠陥だと強調しているような感じがする〔私にはそれが、男たちがそのような欠陥を(男の属性として)本来的に持っているという考えに少しばかり重きをなしているように見える〕。私が言いたいのはあくまで、説明できもしないことをしたがったり、人の話を聞かない男たちもいる、ということ。記事の中では明確に書いていなかったかもしれないが、興味はあるけどよく知らない事柄をだれかに説明してもらうのは好きだ。でもこちらがよく知っていて、むこうが何ひとつ知らないことについて説教されても、まともな会話にならない)。*1

 

The term "mansplaining" was coined soon after the piece appeared, and I was sometimes credited with it. In fact, I had nothing to do with its actual creation, thought my essay, along with all the men who embodied the idea, apparently inspired it. (I have doubts about the word and don't use it myself much; it seems to me to go a little heavy on the idea that men are inherently flawed this way, rather than that some men explain things they schouldn't and don't hear things they should. If it's not clear enough in the piece, I love it when people explain things to me they know and I'm interested in but don't that the conversation goes wrong.)

「個人的にはどうもしっくりこない語なので」の原文は"I have doubts about the word"となっています。ソルニット自身は「マンスプレイニング」という語を用いることについては戸惑いを感じており、「マンスプレイニング」という語を用いることによって伝えたいこととは別のことが伝わってしまうことに対して危惧を予見している、というようなニュアンスでしょうか。つまり、ソルニットは、「マンスプレイニング」という語が体現している内容(「説教したがるのは男の内在的な欠陥だと強調している」こと)と、ソルニット自身が訴えたい内容(すなわち「説明できもしないことをしたがったり、人の話を聞かない男たちもいる」こと)とは微妙にズレていると感じているようです。どうしてこのようなズレが生じてしまっているのでしょうか。

 このズレをヨリ明らかにするために、まずソルニット自身が記述しようとした「説明できもしないことを〔説明〕したがったり、人の話を聞かない男たち」が一体どのような人たちなのかを確認しましょう。それは彼女が体験した次のエピソードを読めば、一発で理解できます。

 マイブリッジの名前を出すや、彼は私を遮った。「今年出たばかりのマイブリッジ関連のとても重要な本を知ってるかね」。

 無邪気な娘役を演じることに夢中になっていた私は、自分の本と同じ主題の本がその年に出ていたのに見落としていた、と危うく信じかけた。男はすでにそのとてもインポータントな本とやらについて、ああだこうだとまくし立てていた──その表情にはすごく既視感があった──はるか彼方までおよぶ自分の権威、そのぼんやりと霞む地平線をじっと見つめながら滔々と長話をする男の、満足しきった表情。

 念のためにいっておくと、私のまわりはこんな男ばかりではない。若い頃からずっと私の話を聞き、激励し、著作を出版してくれた編集者たち。どこまでも寛容な弟。そしてペレン先生のチョーサーの授業で聞いて以来忘れられない『カンタベリー物語』の学僧のように、「学び教えることを惜しまない」すばらしい友人たち。といっても、碌でもないのもまたいるわけだ。ミスター・インポータント氏が、私が当然知っているべき件の本について自慢げに語っていると、サリーが「それ、彼女の本ですけど」と割って入った。というか、とにかく男を黙らせようとした。*2

ここを読む限り、「ミスター・インポータント氏」と呼ばれる男の説明する行為は、言ってしまえば自己満足的な行為です。つまり、相手のもつ知識水準に合わせて会話することをせず、一方的に自分の知識を披瀝するという行為は、双方的な会話というよりもただの演説に近いかもしれません。そこにあるのはコミュニケーション上の機能不全だと言えそうです。

 ソルニットが感じているように、もし「マンスプレイニング」という語が「説教したがるのは男の内在的な (inherently) 欠陥だ」ということを強調するものだとすれば、それはすなわち「説明すること」が男性に顕著にみられる一般的な傾向ということになってしまいます。英語のinherentlyは「本来的な」という意味です。もし「マンスプレイニング」が男性が生まれ持って備えている男性特有の性質であるならば、男性が男性をやめないかぎり自分自身から「マンスプレイニング」という属性を除こうとすることは困難であることになります。

 もし「マンスプレイニング」が男性の社会的役割によって構成されたジェンダーの問題だとすれば、その発生の起源を解明することによって解決の糸口を探ることはできるでしょうし、それによって「マンスプレイニング」が解決不可能ではなく解決可能な問題であるという見通しを持てることこそが重要だと思います*3

 少なくとも、「説明する」という行為が言語活動であるという点から、「マンスプレイニング」が男性に本来的に備わっている属性ではないと考えられます。というのも、言語というものは学習を通じて後天的に獲得されたものであり、したがって言語使用によって為される「マンスプレイニング」もまた後天的に獲得された性質だと考えられるからです*4

 ソルニット自身は、「念のためにいっておくと、私のまわりはこんな男ばかりではない」と釘を刺し、「マンスプレイニング」の一般化には否定的なようです。そして、そうであるがゆえに「マンスプレイニング」という語に対してソルニットが違和感を抱いていると言えるかもしれません。

おわりに

 もし「マンスプレイニング」が男性一般にみられる傾向ではなく、ある特定の男性にみられる傾向だとすれば、その傾向は何に起因するものなのでしょうか。

 今回は「マンスプレイニング」を取り上げましたが、日本ではあまり聞かれていないように思います。日本ではむしろよく用いられるのは、「マンスプレイニング」に似た言葉で、男女共に見られる「マウンティング」かもしれません。「マウンティング」については別の機会に述べたいと思います。

文献

*1:ソルニット [2018]、22頁。〔〕は引用者による補足、強調は引用者によるものである。

*2:ソルニット [2018]、8〜9頁。

*3:とは言うものの、「マンスプレイニング」がジェンダーの問題だからその解決が"容易だ"ということにはならない。むしろジェンダーの問題だからこそ拘束力が強く解決し難いという可能性も大いにある。「マネーとタッカーの業績は、次の二点にまとめることができる。第一に、生物学的還元説に対して、セックス(生物学的性差)とジェンダー(心理学的性差)とは別なものだとあきらかにしたこと、第二に、だからといってジェンダーが自由に変えられるようなものでなく、その拘束力が大きいことを証明したことである。」(上野 [2015]、11頁)。

*4:そもそもジェンダーと言語とは、根本的なところで結びついている。「「性自認」は二歳までの言語習得期に形成されると言われている。ホルモンと同じく、この臨界期を過ぎるとその後は変化しない。心理学的な性差研究にはおびただしい蓄積があり、幼児の時から、男児は空間能力にすぐれ、女児は言語能力にすぐれているといった調査結果があるが、マネーとタッカーによれば、被験者が調査に応じられるようになるまでには、「性自認」は形成されてしまっていることになる。したがって言語によっておこなわれるあらゆる心理学的性差研究は、一種の「予言の自己成就」、すなわち言語によって形成された性差を言語によって追認するという作業になる。…(中略)…マネーとタッカーは、生物学的性差の基盤のうえに、心理学的性差、社会学的性差、文化的性差が積み上げられるという考え方を否定し、人間にとって性別とはセックスではなくジェンダーであることを、明瞭に示した。人間においては、遺伝子やホルモンが考える、のではない。言語が考える、のである。」(上野 [2015]、10〜11頁)。

ウンベルト・エーコの著作(邦訳)の暫定的なまとめ

はじめに:エーコ追悼

 本日2月19日は、ウンベルト・エーコ(1932-2016)の命日である。三年前の2月19日22時30分に彼は息を引き取った。死因はがんであった。

 ウンベルト・エーコは、稀有な才能をもつ"文学者"であった。それは、彼が記号学などの分野で学者として傑出した才能を発揮するとともに、数々のベストセラー作品を生み出す小説家でもあったという意味においてである。

 彼の有名な小説『薔薇の名前』("Il Nome della Rosa", 1980年発表)は、後にショーン・コネリー主演で映画化もされた(1986年)。

wired.jp

courrier.jp

 以下に謹んでエーコの著作一覧を掲げておく。この機会に是非手に取られたい。

 

ウンベルト・エーコ著作一覧(邦訳)

*外国語文献についてはこちら*1を参照のこと。

*雑誌・紀要に収録されている著作についてはこちら*2を参照のこと。

2018年に書いた記事まとめ

目次

2018年に書いた記事まとめ

 今日は今年最後ということで、2018年に書いた記事を振り返ります。

1月(仮想通貨)

 1月は仮想通貨ネタでした。

  1. アルトコインあるいはビットコインのオルタナティブについて

2月(仮想通貨)

 2月も仮想通貨ネタですね。もう遠い過去のように思います。

  1. イタリアの仮想通貨取引所BitGrailで盗まれたNanoについて(DAGとブロックチェーン)

3月(投資、効率、家族、ブルデュー

 3月から記事の趣向が変わっていますね。

  1. 採用と投資 ー投資人材と消費人材ー
  2. 「手抜き」のススメ

  3. 家族というメタファー

  4. ブルデューに学ぶ

4月(ヴィトゲンシュタイン西周、大学、ドイツ通俗哲学、権利)

 4月から明らかに哲学や思想方面の記事にシフトしています。ドイツ通俗哲学について言及したことによって、その記事が小谷さんの進捗報告会に参加するきっかけにもなりました。

  1. テクスト解釈の多様性
  2. ヴィトゲンシュタイン『哲学探究』はシュールな思考の本だ
  3. 西周「百学連環」とencyclopedia
  4. 大学の図書館は重要な存在
  5. 大学とはメディアなのか
  6. 通俗の弁証法 あるいはカント・ドイツ通俗哲学・西周
  7. 「権利」という翻訳語
  8. 田上 孝一[編著]『権利の哲学入門』(社会評論社、2017年)

5月(ホッブズヘーゲル、権利、正義、EC、アマゾン)

 5月はホッブズの観点から「権利」を捉え直し、ヘーゲルの観点から「正義」を捉え直す試みでした。

  1. ホッブズの権利論──自然権と自由
  2. 家庭用POSシステムについて ーEC市場・潜在的在庫・レコメンド機能問題への一寄与ー
  3. ヘーゲルの「正義」論
  4. ヘーゲル『法の哲学』における「正義」の用例集
  5. アマゾンについての新刊3冊
  6. ホッブズの「哲学=科学」論

6月(イェーリングヘーゲル

 6月は、僕としては珍しくヘーゲルの『精神の現象学』を扱っています。科学哲学のコンテクストの中でヘーゲル精神の現象学』の「序言」を読み直しました。

  1. イェーリングの「権利感情」論
  2. ヘーゲル『精神の現象学』「序言」における《哲学》と《科学》

7月(ヘーゲル

 7月はヘーゲルをテーマに書いています。

  1. ヘーゲル体系における完全性?
  2. カーネマンとヘーゲルの意志・思考論

8月(ヘーゲルヴィーコ

 8月からやや新しいテーマに挑戦し始めています。自分としては初めてヴィーコに言及しました。

  1. いわゆる「自由意志」論(1)
  2. 不満について

  3. ヘーゲルの「倫理」について

  4. ヴィーコの「共通感覚(常識)」論

  5. ヘーゲル『世界史の哲学』講義録における文献学的・解釈学的問題

  6. ヴィーコの文献を読むなど

9月(健康診断)

 9月は1記事しか書いてないですね。忙しかったんでしょう。

  1. 健康診断結果を分析する

10月(本居宣長、検索、Googleなど) 

 10月も忙しかったと思いますが、Googleの機能を百科事典や検索の歴史から考察しました。

  1. 熊野純彦『本居宣長』(作品社、2018年)
  2. 検索と参照──L'Encyclopédie・Cyclopædia・Wikipedia
  3. Google+の閉鎖とユーザーの情報流出について
  4. 松岡正剛『情報生命』(角川ソフィア文庫、2018年)

11月(Instagramベンヤミン

 11月はInstagramを始めてみました。そしてベンヤミンの写真論を読もうと思っているうちにいつの間にかベンヤミンの「歴史哲学テーゼ」を読み解いていました。

  1. 【音楽】よく聴く好きな曲【相川七瀬・茅原実里・MANISH】
  2. Instagram──スクエアのうちに表現されし美学
  3. Instagram(2)──調理としてのフィルター
  4. ベンヤミンの遺稿「歴史の概念について」

12月(ベンヤミン、リキッドバイオプシー、YouTube Music)

 12月は引き続きベンヤミンを読むとともに、医療技術やYouTube Musicのようなサービスについて書きました。

  1. ベンヤミンのいわゆる『複製技術時代の芸術作品』
  2. ベンヤミンの遺稿「歴史の概念について」(2)

  3. 文献表の作成について

  4. ガーダントヘルスとリキッドバイオプシー

  5. 「YouTube Music」について

  6. 架空のインタビュー

おわりに

 さて、いかがでしたでしょうか。

 僕が2018年に書いた記事のテーマが多岐にわたるため、僕の興味関心が一貫性のないもののように思われたかもしれません。実際そうかもしれませんし、実は通奏低音のように一貫したものが垣間見えたかもしれません。

 兎にも角にも、以上が今年1年間自分が書きたいように書いてきた結果です。もともと僕自身の興味関心が多岐にわたるため、大学で一つの専門に絞って研究を続けていくのが難しいから在野研究という形をとって書き散らしているのです。

 来年も今年同様に、自分の興味関心の赴くままに研究を続けたいと思います。

 今年一年お読みいただきありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願い致します。

架空のインタビュー

目次

自分に架空のインタビューを仕掛けてみました。 

架空のインタビュー

あなたの長所と短所は?

 長所は興味があることにトコトン集中して取り組むことができるところ。短所は興味持てないことにはなかなか取り組むことができないところ。 

趣味やストレス発散方法は?

 ブログを書くこと。休日や仕事終わりに興味あるテーマについて本を買って読んだり、論文を読んで調べ、それをブログに書いてまとめている。一つの記事を書き上げた達成感は何事にも代えがたい。 

ストレスは感じやすい方?

 ほとんど感じない。いままで上手く行かなかったことが多かったので、ちょっとやそっと結果が出なくても動じない。ただ、毎日、本を読んだり調べ物をしたりして常に情報をインプットしていないとストレスを感じる。

これだけは一番だと言えることは?

 にわかに興味を持ったことを調べて短期間でまとめる力。 

あなたを漢字一文字で表すと?

 名前の中にも入っている「幸」。 

あなたにとって仕事とは?

 「最高の暇つぶし」。仕事をしないと一日中暇でしょうがないから。逆に「お金をあげるから働かないでくれ」と言われても、たぶん何かしら仕事をすると思う。

「YouTube Music」について

目次

 今回はGoogleの新サービス「YouTube Music」について書きたいと思います。

YouTube Musicの登場

 11月に個人用スマホをPixel 3 XLにしました。Pixel 3の購入者にはいくつかの特典があり、特典の一つとして「YouTube Music Premium」の6ヶ月間無料トライアルがありましたので、早速利用してみました。

mobilelaby.com

 「YouTube Music」は日本では2018年11月14日に公開されたばかりのサービスです*1

 「YouTube Music」には有料版と無料版があり、有料版を「YouTube Music Premium」と言います。無料版には広告があり、有料版には広告がありません。ユーザーにとっては広告がない方が良いですが、Googleにとっては無料版なら広告収入によって、有料版ならサブスクリプションによって収益化が可能です。

 なお有料版の金額はGoogle Playから申し込んだ場合とAppleApp Storeから申し込んだ場合とで異なっており、Google Play経由の場合が月額980円であるのに対して、App Store経由の場合は月額1,280円と少し割高に設定されています。

YouTube動画×バックグラウンド再生=最強

 「YouTube Music Premium」の大きなウリはバックグラウンド再生ができることです。残念ながら、無料版の「YouTube Music」ではバックグラウンド再生はできません。

 バックグラウンド再生のメリットは、画面をオフにしても音楽を聞くことができる点です。

 通常、YouTubeにアップロードされている音楽を聴く場合、画面を常にオンにしていなければなりません。これだと、ただ音楽を聴きたいだけなのに、画面オンのためにバッテリーを消耗してしまいます。

 これに対して、有料版の「YouTube Music Premium」では、「YouTube Music」で配信されている音楽だけでなく、YouTubeにアップロードされている動画も含めて、バックグラウンド再生が可能となります。これによって、以前と比べてバッテリー持ちを気にせずに音楽を気軽に楽しめるようになりました。

www.businessinsider.jp

SpotifyにとってYoutube Musicは脅威

 「YouTube Music」の競合他社としてすぐに思い浮かぶのがSpotifyです。両方のサービスを利用したことがある人ならすぐに分かりますが、「YouTube Music」のプレイリストは、明らかにSpotifyのそれを模倣し、アレンジしています。

 「YouTube Music」とSpotifyは有料版と無料版がある点で似ていますが、細かいサービス内容は異なっています。Spotifyは無料版でもバックグラウンド再生が可能です。音質(ビットレート)の点では「YouTube Music」*2よりもSpotify*3の方が優れていると言えます。

 しかしながら、両者には決定的な違いがあります。それは「YouTube Music」だけが、YouTubeにアップロードされた豊富な音楽コンテンツ*4を再利用できるという点です。これだけは同業他社が絶対に真似できない点です。

www.businessinsider.jp

試用期間の長期化戦略:フリーミアムとサプスクリプション

 「YouTube Music」のように無料版と有料版があるようなビジネスモデルを「フリーミアム*5と言います。フリーミアムは、フリー(無料)とプレミアム(有料)の組み合わせで成り立っており、一般的にフリーからプレミアムに切り替わる割合は非常に小さいと言われます。

 ここで一つ気づくことがあります。「YouTube Music Premium」はサブスクリプションというビジネスモデルが巧みに導入されています。特にGoogleサブスクリプションが他のサービスと違うのは、無料で試用できる期間が長いことです。通常のサブスクリプションは、1ヶ月間無料や30日間無料というように期間が短いことが多いのですが、Googleの「YouTube Music」の場合は3ヶ月や6ヶ月と通常の倍以上長い期間、無料で試用できます。

 長い試用期間の効果はおそらく絶大です。なぜならユーザーは「忘れないうちに早く解約しなきゃ」と心配する必要がないので、安心してサービスを利用してしまいます。従来の1ヶ月間だけの試用期間では、サービスを使うことが習慣化しないまま解約されてしまっていたかもしれません。しかし、3ヶ月や半年と長く試用すればするほど、ユーザーはそのサービスを使うことが生活の一部となってしまい、やめることができなくなってしまうかもしれません(ニコチン中毒のように…)。

  

*1:YouTube Music」は、日本に先んじて、2018年5月22日にアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、メキシコの4カ国で公開された。

*2:YouTube Musicの音楽はAACエンコードされている。無料版では標準音質128kbpsで再生される。有料版のYouTube Music Premiumユーザーは音質を選択することができるようになり、高音質では256kbpsで再生できる。アプリ初期設定では標準音質になっている為、うっかり標準音質のまま有料版を使い続けないように注意されたい。もしあなたが有料版のYouTube Music Premiumを利用しているなら、「常に高音質」に設定しておくことをおすすめする。

*3:Spotifyの場合、一部AACで配信されるという例外を除いて、基本的にはOgg Vorbisエンコードされており、標準音質では160kbps、最高音質では320kbpsで再生される。

*4:ただし、「YouTube Music」で再生できるのは、YouTubeにアップロードされた全ての動画ではない。YouTubeのあらゆる動画をバックグラウンド再生したければ、「YouTube Premium」に申し込む必要がある。

*5:クリス・アンダーソンは、フリー(無料)のビジネスモデルを四つに分けた上で、次のように述べている。「『フリーミアム』[Freemium]は、ベンチャー・キャピタリストのフレッド・ウィルソンの造語で、ウェブにおけるビジネスモデルとしては一般的だ。それは多くの形態をとりうる。無料から高額のものまでさまざまなコンテンツをそろえるところもあるし、無料版にいくつかの機能を加えてプロ用の有料版をそろえるところもある(無料のフリッカーと、年間二五ドルを払うフリッカー・プロがその例だ)。」(クリス・アンダーソン『フリー [ペーパーバック版]:〈無料〉からお金を生みだす新戦略』NHK出版、2016年、44頁)。

ガーダントヘルスとリキッドバイオプシー

目次

 今回はガーダントヘルスとリキッドバイオプシーについて書く。

はじめに

 株式市場が全体的に下落している。最近はボラティリティが大きく、1日で数十万資産額が変動することに鈍感になってしまったが、それでも運用に関して反省すべき点がたくさんあった。いい機会なので、不要な銘柄を売って、新しい投資先を探すのが良いかもしれない。

 問題はどこに投資するかである。

ガーダントヘルス

 最近、新たな投資先としてガーダントヘルスが気になっている。今年まだ上場したばかりの会社だ。血液からがんの遺伝子検査をする会社である。

f:id:sakiya1989:20181220224726j:plain(ガーダントヘルスのチャート、赤線は筆者)

チャートに線を引いてみたが、特に意味はない。

リキッドバイオプシー

 筆者はがんについて詳しいことは知らないが、あえて簡単な説明に挑戦してみる。間違っていたら許してほしい。

 がんを診断する際には、ふつうバイオプシー、すなわち生体検査(以下、生検)という方法をとる。これは腫瘍組織の一部を採取して、顕微鏡で詳しく調べ、がんの診断を下す方法だ。従来の生検は、人体の一部を切除する侵襲的検査なので、患者の身体への負担が大きい。身体への負担の大きさが分からないという人は、シャイロックに一ポンドの肉片を切り取られる苦しみを想起されたい。

 これに対して、ガーダントヘルスが提供するのがリキッドバイオプシー、すなわち血液生検という方法である。これは血液を採取して、がんの診断を下す方法だ。リキッドバイオプシーは、血液の採取だけで済む非侵襲的検査なので、従来の生検と比べて患者への負担は軽い。小さい試験管2本分の血液をガーダントヘルスに送付して、検査結果を1〜2週間程度待つだけだ。

 がん患者の体内では、がん細胞が腫瘍から血液へとわずかに漏れ出したり、漏れ出したがん細胞から発生したDNAが体内を循環していることがある。前者をCTC(血中循環腫瘍細胞)と呼び、後者をctDNA(血中循環腫瘍DNA)と呼ぶ。これらのサインをバイオマーカー*1として利用することができる。

 がんが肺がんや前立腺癌などの多様な部位で腫瘍を発生するのと同じく、がんのDNAも発生部位によって異なるとされる。ガーダントヘルスの提供する「Guardant360」では、73ものがん遺伝子を識別することができるので、それぞれのがん遺伝子に合わせて適切な治療法を行うことができるのである。

おわりに

 筆者はかつて修士論文執筆中に体の調子が悪くなり、「もしかして自分はがんじゃないか」と疑った時がある。その後、無事治ったからよかったものの、自分ががんかもしれないと思った時の恐怖は筆舌し難いものがある。

 がんは死亡要因の代表的なものであり、人生100年時代にはいつか誰もがなっておかしくない病気だ。リキッドバイオプシーのように患者の身体への負担を減らす有効な対処法がテクノロジーによって実現されることは望ましい。さらなる進展に期待したい。

文献

*1:バイオマーカーとは「通常の生物学的過程、病理学的過程、もしくは治療的介入に対する薬理学的応答の指標として、客観的に測定され評価される特性」のことである。

文献表の作成について

 今回は、文献表の作成ついて書きたいと思います。

 私はこのブログで関心のあるテーマについて記事を書いていますが、記事を書く前には必ずと言って良いほど文献表を作成しています。「まだ先行研究で消耗してるの?」*1というふざけたタイトルを採用していますが、私は決して先行研究を無視していいとは考えていません。

 論文を書く場合、当然のことながら先行研究を無視することはできません。先行研究を踏まえた上で、自分の研究が新たに付け加える意義を自ら明らかにしなければなりません。

 このブログ記事は論文ではありませんが、時間が許す限りで先行研究に当たることを常としています。先行研究に当たる前段階として、私は文献表を作成しています。

 私が文献表を作成するにあたって参考にしているサイトは、主にCiNii ArticlesとJ-STAGEAmazon、そしてGoogle検索です。

これらのサイトで検索したものを、Googleドキュメントで文献表として手入力でリストアップします。

f:id:sakiya1989:20181218184947j:plain(文献表の例。Googleドキュメントでクラウド上に保存してある。)

 手入力で文献表を作成するのはだいぶ骨が折れます。「もしかしたら文献表を作る必要などないかもしれない」とさえ思うこともあります。というのも、CiNiiやJ-STAGEで「ヘーゲル」や「ベンヤミン」と入力すると、そのワードで引っかかった論文が一気に表示されるのですから、読む必要に応じてその都度検索すれば良いような気もします。実際、文献表を作るだけならば、Webスクレイピングで自動化すれば事足ります。

 しかし、注意しなければならないのは、文献表を作ることそれ自体が目的なのではなく、文献表の作成は関心のあるテーマについて適切に書くために必要な通過儀礼であるということです。というのも、私は文献表の作成という過程を通じて、その関心のあるテーマの文献表を常に頭の中に思い浮かべることができるようになり、しかもこの想起が原動力となってふと「あの文献を読もう」という意欲が生まれてくるからです。このような効果を期待して手入力で文献表を作成しているのですから、文献表の作成を自動化することは(それが可能であるとしても)できないのです。

 文献を作成し保存するのはGoogleドキュメントがおすすめです。どういうわけか、毎年恒例Twitterでは卒論の時期になると「バックアップを取りなさい」というツイートがTLに流れてくるのですが、ドキュメントファイルをパソコンやUSBメモリにのみ保存するというのは過去のやり方であって、今後はGoogleドライブのようなクラウド上に保存し、書き進めたら自動で保存されるというのが現代のやり方です。

 余談ですが、かつて私が在籍していた一橋大学大学院社会学研究科修士課程では、M2以降の在籍者は全員「リサーチワークショップ(RW)」というものを行うことになっています。RWでは、社会学研究科の指導教員たちを前に自分の研究テーマについて発表します。事前にレジュメを2〜3ページほどでまとめて提出するのですが、レジュメは修士論文目次・概要(3〜4ページ程度)・参考文献から成ります。私が書くために参考文献をリストアップするという習慣を身につけたのは、このRWを通じてだったと思います。

*1:このタイトルはイケダハヤトさんの「まだ東京で消耗してるの?」をもじったものです。