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ヘーゲル『精神現象学』覚書(11)

目次

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ヘーゲル精神現象学』(承前)

序文(承前)

「もっとも困難な」こととしての「叙述してみせること」

もっとも容易なのは,内実をそなえ,堅固なものを評価することだ.より困難なのはそれをとらえることであり,もっとも困難であるのは,そのふたつのことがらを統合することである.つまり,内実があり,堅固なものを叙述してみせることにほかならない.

(Hegel1807: Ⅴ,熊野訳(上)14〜15頁)

ここでは「もっとも容易な」こと,「より困難な」こと,「もっとも困難な」ことの三段階に分けられている.上で述べられていることを,一旦,箇条書きにして整理してみる.

  1. 「もっとも容易な」こと:「内実をそなえ,堅固なものを評価すること」
  2. 「より困難な」こと:「それをとらえること」
  3. 「もっとも困難な」こと:「そのふたつのことがらを統合すること」すなわち「内実があり,堅固なものを叙述してみせること」

ここで「ふたつのことがら beydes 」とは,「内実と堅固さ Gehalt und Gediegenheit 」*1のことではなく,「もっとも容易な」ことがらと「より困難な」ことがらの両者を指していると考えられる.これら二つの段階の統合として,「もっとも困難な」ことがらが示されている.

 ここでヘーゲルが「それを叙述してみせること seine Darstellung hervorzubringen 」として述べている「それ seine 」は,「内実があり,堅固なもの was Gehalt und Gediegenheit hat 」なのだろうか.むしろ「もっとも容易な」ことがらと「より困難な」ことがらの「ふたつのことがらを統合すること was beydes vereinigt 」を「叙述してみせること」が,「もっとも困難な」ことだとされているのではないか.

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文献

*1:神山伸弘はGehaltとGediegenheitが鉱物用語であると指摘している.「いずれも鉱物用語であって,ヘーゲルが鉱物学会員であることに留意する必要がある."Gehalt"は,「内実」と訳すが,含有されているものである.その含有量に多寡があるなかで,"Gehalt"も当該物質に着目する点では「純度」ともいえるのだが,その純度の高さを明確に語るものが"Gediegenheit"「至純なもの」である.」(神山2015:48).