目次
ヘーゲル『精神現象学』(承前)
序文(承前)
「もっとも困難な」こととしての「叙述してみせること」
もっとも容易なのは,内実をそなえ,堅固なものを評価することだ.より困難なのはそれをとらえることであり,もっとも困難であるのは,そのふたつのことがらを統合することである.つまり,内実があり,堅固なものを叙述してみせることにほかならない.
(Hegel1807: Ⅴ,熊野訳(上)14〜15頁)
ここでは「もっとも容易な」こと,「より困難な」こと,「もっとも困難な」ことの三段階に分けられている.上で述べられていることを,一旦,箇条書きにして整理してみる.
- 「もっとも容易な」こと:「内実をそなえ,堅固なものを評価すること」
- 「より困難な」こと:「それをとらえること」
- 「もっとも困難な」こと:「そのふたつのことがらを統合すること」すなわち「内実があり,堅固なものを叙述してみせること」
ここで「ふたつのことがら beydes 」とは,「内実と堅固さ Gehalt und Gediegenheit 」*1のことではなく,「もっとも容易な」ことがらと「より困難な」ことがらの両者を指していると考えられる.これら二つの段階の統合として,「もっとも困難な」ことがらが示されている.
ここでヘーゲルが「それを叙述してみせること seine Darstellung hervorzubringen 」として述べている「それ seine 」は,「内実があり,堅固なもの was Gehalt und Gediegenheit hat 」なのだろうか.むしろ「もっとも容易な」ことがらと「より困難な」ことがらの「ふたつのことがらを統合すること was beydes vereinigt 」を「叙述してみせること」が,「もっとも困難な」ことだとされているのではないか.