まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

〔翻訳〕ニコラス・バーボン『より軽い新貨幣の鋳造に関する論究』(1)

目次

はじめに

 以下ではニコラス・バーボン『より軽い新貨幣の鋳造に関する論究:ロック氏の貨幣の価値の引き上げについての考察に答えて』(Nicholas Barbon, A DISCOURSE Concerning Coining the New Money lighter, IN Answer to Mr. Lock's Confiderations about raising the Value of Money, London, 1696)の翻訳を試みる。

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 マルクスは『資本論』の注の中でバーボンのこの著作から何度か引用している。またケインズシュンペーターのような経済学者たちもバーボンから影響を受けたとされる。この点で、バーボンの著作は経済学史において重要な役割を果たしているといえるが、これまで邦訳は『交易論』(東京大学出版会、1966年)のみ出版されている。

 訳者はドイツ語やフランス語、ラテン語など、いくつかの言語を学んできたが、それはもともと英語が苦手だったからである。中学から高校にかけて勉強をサボり、大学受験を期に一念発起して独学しただけの英語力に過ぎない。大学から大学院までの間にも英語で十分な指導を受けた試しがない。それゆえ、下に訳出する翻訳は、訳者がドイツ語やラテン語の学習を経由して得た、素人のそれであることをあらかじめ断っておく。

 この度、翻訳にあたってはGoogle翻訳とDeepL翻訳を大いに活用している。まず訳者が下訳を作り、それから原文をGoogle翻訳とDeepL翻訳にかけて比較対照し、文法的に読みやすい訳文へと総合した。これらの機械翻訳はまだまだ完璧とはいえない。Google翻訳は対応言語が多いが、訳文の完成度は十分とは決して言えない。たほうDeepL翻訳は対応言語がGoogleのそれと比較すると少ないが、深層学習のおかげで訳文がこなれていることがある。いずれにせよ、「三人寄れば文殊の知恵」の諺通り、一人で訳文を推敲するよりは機械翻訳の訳文を参考にした方が時間的にも効率的である。仕事の休憩の合間にでも翻訳を進めてみたいと思う。

ニコラス・バーボン『より軽い新貨幣の鋳造に関する論究』

富、および諸物の価値について

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 ロック氏の著作における貨幣の価値の引き上げに対する議論は、次の単純な仮定から導出されている。それはすなわち、銀貨には内在的価値があり、それは共通の同意が置かれた価格や評価額であり、それが他のすべての諸物の価値の尺度となっている、という仮定である。もしそれが真実ではなかったとしたら、彼の帰結はすべて誤りであるに違いない。

(Barbon1696: 1)

本書のサブタイトルにあるように、この著作はバーボン(1640-1698)の同時代人であるジョン・ロック(1632-1704)の著作の議論を受けたものである*1

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 そして、彼がそう述べていることを証明するためには、〔RICHES〕一般について論じ、諸物の価値がどのように生じるかを示す必要があるだろう。

(Barbon1696: 2)

「富 RICHES 」がここでのキーワードである。アダム・スミス国富論*2の邦訳書では、 Wealth には「富」、Opulence には「富裕」が訳語として採用されている(スミス2020)。 Wealth と Riches の違いについて、沖公祐は次のように述べている。

スミスが富を示すのに用いた wealth は、 well (善い)が名詞化したものであり、元々は善いものという抽象的な意味の言葉である。つまり、ウェルスは富の遠回しな言い方なのである。富を指すより直接的な英語としては riches があり、重商主義者たちはむしろこちらの方を好んだ。富を表すドイツ語は Reichtum 、フランス語は richesse であるが、いずれも wealth ではなく、 riches に対応する言葉である。

(沖2019: 46)

「富 Riches 」という語が出てきた場合、我々は重商主義の議論を想起しなければならないであろう。そのさい、バーボンはどのように位置付けられるのだろうか。

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 富とは、偉大な価値のあるようなすべての物を意味する。

 価値とは、諸物の価格と解されるべきである。つまりそれは、どんな物も売却されるほどの値打ち〔worth〕があるということである。古い格言によれば、〔どんな物も〕売却されるだけの価値があるValet quantum vendi potest〕。

 すべての物の価値は、その物の使用〔Use〕から生じる。

 何も使用しない物には、何の価値もない。英語のフレーズにあるように、それらは何の役にも立たないThey are good for nothing〕。

(Barbon1696: 2)

ここで示されている「富」や「価値」の概念は、注目に値する。

バーボンは「富 Reiches 」を「価値あるそのようなすべての物 Things 」としているが、この点はユニークではないだろうか。というのも、「富」は本来的に権力を意味していたといわれているが、ここでは「物 Things 」とされているからである。

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文献

*1:Locke1692, 1695. まだ未確認だが、これらの邦訳はロック1978に収められているかもしれない。

*2:国富論』初版は Smith1776a;1776b;1776c であり、その第五版は Smith1789a;1789b;1789c である。