まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

〔翻訳〕ニコラス・バーボン『より軽い新貨幣の鋳造に関する論究』(19)

目次

sakiya1989.hatenablog.com

ニコラス・バーボン『より軽い新貨幣の鋳造に関する論究』(承前)

貨幣,およびいくつかの鋳貨の額面について(承前)

名目価値と実質価値のズレ

 For the better answering this Question, it will be necessary to discourse in general of Money, and the Par of the several Coins.

 Money is a Value given to a piece of Metal by the Stamp of Publick Authority, which is commonly greater than the Value of the Metal that bears the Impression.

 The Value of each piece of Money is known by the difference of the Stamp, Size and Colour of the piece.

 この問題に対してより適切に回答するためには,貨幣の一般的なものと,そしていくつかの鋳貨の額面について論究する必要があるだろう.

 貨幣とは,公的権威の刻印によって金属の一個片に与えられた価値〔Value〕であり,これは通常,その押印を持つ金属の価値よりも大きい.

 それぞれの貨幣の各個片の価値は,その各個片の刻印・大きさ・色の違いによって知られる.

(Barbon1696: 13)

バーボンが先に挙げていた問題提起に照らし合わせてみよう.バーボンは先にロックの著作から次の一文を引用していた.

貨幣が鋳造されていない銀と異なる唯一の点は,貨幣の量目と純度との公的保証としてそこにふされている刻印によって,貨幣の各個片に含まれる銀のが確認される点にある.(Locke1695: 22-23,田中・竹本訳246頁)

ロックによれば,政府による公的保証の刻印された貨幣は,その刻印からその鋳貨のうちに物理的に含有されている銀の量が確認できるという.しかし,バーボンはこの点に引っかかりを感じている.というのも,盗削(clipping)や改鋳によって銀の含有量が貨幣から減らされてしまうことによって,政府がその額面に保証している銀の含有量よりも実際には少ないことになり,その結果,鋳貨の各個片の額面(政府が保証する名目価値)と価値(その貨幣に実際に含有されている金属の価値)との間には,個々にズレが生じるからである.この意味でバーボンは「貨幣とは,公的権威の刻印によって金属の一個片に与えられた価値であり,これは通常,その押印を持つ金属の価値よりも大きい」(Barbon1696: 13)と述べているのである.

(つづく)

文献