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ホッブズ『リヴァイアサン』覚書(4)

目次

sakiya1989.hatenablog.com

ホッブズリヴァイアサン』(承前)

序説(承前)

人間の機構に擬えられし政治概念

そして、そのなかで、主権 Soveraignty は全身体に生命と運動を与えるのだから、人工のであって、為政者たち Magistrates とその他の司法と行政の役人たちは、人工の関節である。賞罰(それによって主権の地位にむすびつけられて、それぞれの関節と四肢は、自己の義務を遂行するために動かされる)は、神経であって、自然の身体においてと、おなじことをする。すべての個々の構成員の財産は、であり、人民福祉 Salus Populi人民の安全)は、それの業務であり、それが知る必要のあるすべてのことを、それに対して提示する顧問官たちは、記憶であり、公正 Equity諸法律は、人工の理性意志であり、和合健康騒乱病気で、内乱である。さいごに、この政治体の諸部分を、はじめてつくり、あつめ、結合した協定 Pacts信約 Convenants は、創造において神が宣告したあの命令 Fiat すなわち人間をつくろうということばに、似ている。

(Hobbes1651: 1, 訳37〜38頁)

「〔協定と信約によって〕この政治体の諸部分がはじめてつくられ、一緒にされて、統一された」とあるが、この一文の中にホッブズの政治体の特徴が示されている。というのも、例えばヘーゲルのような国家有機体論者は、政治体は部分の寄せ集めによって成立するものではないと考えるからである。あるいは人間の機構を真似した部品をいくら寄せ集めたところで人間のような有機体にはならないとヘーゲルは考える。これに対してホッブズの政治体はまったくもってそのような有機体論ではなくて、機械論的であり、自然身体と同一の機能を代替し得る部品の集合体なのである。

 この箇所では、様々な政治概念に対応する人間の機構がそれぞれ示されているわけだが、もちろんそれは前回の「リヴァイアサン」同様メタファーとして、そうなのである。これらの政治概念と人間機構との一致は、ホッブズによってきわめて蓋然性の高いものへと仕上げられて入るものの、あくまでホッブズの洞察に基づくものに過ぎず、こうした一致が適切か否か、はたまたこれらの政治概念がなぜ、いかにしてその機構に対応するといえるのか、その根拠がいまだ明確に示されているわけではない。その点について詳しくは本書を読み進めていくしかないが、さしあたりそれらの政治概念が本文のどこで扱われているのかを下に示しておくことにしよう。

 「主権性 Soveraignty 」については第二部で扱われる*1

 「財産 Riches 」が力であることについては第一部第十章「力、値うち、位階、名誉、ふさわしさについて」で扱われる*2

 「理性 Reason 」については第一部第五章「推理と科学について」で扱われる*3

 「協定 Pacts 」と「信約 Covenants 」については第一部第十四章「第一と第二の自然法について、および契約について」で扱われる*4

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文献

*1:「この人格をになうものは、主権者とよばれ、主権者権力 Soveraigne Power をもつといわれるのであり、他のすべてのものは、かれの臣民である。」(訳(二)34頁)。

*2:「気前のよさとむすびついた財産もまた、力 Power である。」(Hobbes1651: 41, 訳(一)151頁)。

*3:推理は、われわれの思考をしるしづけ markingあらわす signifying ために同意された一般的諸名辞の連続の計算(すなわちたしひき)にほかならない。」(訳(一)85頁)。

*4:「さらに、契約者の一方が、かれの側では契約されたものをひきわたして、相手を、ある決定された時間ののちにかれのなすべきことを履行するまで放任し、その期間は信頼しておくということも、ありうる。そしてこのばあいは、かれにとってこの契約は、協定 PACT または信約 COVENANT と呼ばれる。」(訳(一)222頁)。