目次
デステュット・ド・トラシー『観念学要論』第二版(承前)
第一部 固有の意味での観念学(承前)
イントロダクション(承前)
ホッブズのこの観察はまさしくその通りである。おそらく我々は一緒にそのことの理由へとすぐに到達するであろうが、それまで、君たちはそのことをとても確実だと思っておいてよいであろう。君たちのわずかな個人的な体験が、いかにその経験が広い範囲であっても、すでにその証明を提供していなかったとすれば、私はたいへん驚くであろう。いずれにせよ、はじめに君たちの仲間たちの一人が、ほかの全員には明らかに不条理に見えるような何らかの観念に頑なに執着している場合に、細心の注意を払って彼を観察すると、君たちは、君たちには最も明白だと思われるような理由を彼が理解できないような精神状態にあることがわかるだろう。これはすなわち、同じ観念が彼の頭の中では君たちとは全く異なる順序で前もって配置されているということ、そして先の観念が訂正される以前に邪魔されるに違いないような他の観念が無限にあることに起因するということである。別の機会に君たちは彼に仕返しをすることができるかもしれない。ああ、我が友よ、ひとが間違った哲学体系や子どもたちの遊びにおいて間違った構成に執着するのは、同じ仕方から*1であり、同じ原因によってである。
(Tracy1804: 2-3)
普段の日常の中で『あの人の考えていることはよく分からない、どう考えてもおかしい』ということはないだろうか。こういう時に何が起きているかをトラシーは俯瞰的に叙述している。つまり、その人と自分との間には、頭の中での観念の配列が異なっているのである。
文献
- Tracy, Destutt de, 1801, Projet d' éléments d'idéologie, a l'usage des ecoles centrales de la republique française, Paris.
- Tracy, Destutt de, 1804, Élémens d’idéologie, Première partie, Idéologie proprement dite, Seconde Édition, Paris.
*1:初版「同じ手法でもって avec les même moyens 」(Tracy1801: 18)。