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ヴィーコ『新しい学』(承前)
著作の観念(承前)
それというのも,ここで見いだし直される詩のいまひとつ別の新たな諸原理に続いてやってくる,同じくここで発見される神話学のいまひとつ別の新たな諸原理によって,物語〔神話伝説〕というのはギリシアの最も古い諸氏族の習俗の真実にして厳格な歴史であったこと,そして,第一には,神々の物語はなおも最も粗野な状態にあった異教世界の人間たちが人類にとって必要または有用なことどものすべてを神であると信じていた時代の歴史であったことが論証されるからである.なお,そのような詩の創作者は最初の諸民族自身であったのであって,最初の諸民族はすべて神学詩人たちからなっていたことが見いだされるのである.疑いもなく神々の物語によって異教諸国民を創建した当の者たちであると伝承がわたしたちに語っている,例の神学詩人たちからである.
(Vico1744: 6,上村訳(上)26頁)
この箇所を読解するにあたって,「物語」という語に注目してみよう.ヴィーコは本書第2巻「詩的知恵」第2部「詩的論理学」第1章「詩的論理学について」の箇所で,「物語」という言葉の語源的解明を以下のように試みている.
論理学〔Logica〕という言い方はギリシア語のロゴス〔λόγος〕という語からやってきたものである.これは最初,そして本来は物語を意味していた.それがイタリア語に移し換えられてファヴェッラ〔言葉〕となったのだった.また,物語はギリシア語ではミュートス〔μῦθος〕とも言われた。そして、このミュートスからラテン語のムートゥス〔無言の/沈黙した〕という語は出てきている.言葉は,人々がまだ無言であった時代に,まずはストラボン*1が黄金のくだりで音声語ないしは分節語以前に存在したと述べているメンタルな言語として生まれたのだった.したがって、ロゴス〔λόγος〕は観念と話し言葉の双方を指しているのである.
(Vico1744: 153,上村訳(上)324〜325頁,訳文は改めた)
「ロゴス λόγος」と「ミュートス μῦθος」とは「物語」を意味するものとして対比的に用いられていた.ヴィーコが「ロゴス λόγος は観念と話し言葉の双方を指している」と述べたとき,ヴィーコは「ロゴス」の相異なる二重の意味を強く認識していたといえる.