まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

「働いていると本が読めない」と思っているあなたへ

はじめに

 書店に行くと三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)が平積みになっていて、X(旧Twitter)でもそれに関するポスト(旧Tweet)がちらほら目に入ってくる。けれども、私にとっては人々の感想を読みながら『なんだかモヤモヤする』気分になる。というのは、「働いていると本が読めなくなる」現象には私自身も若い時から心当たりがあるものの、その苦しみをずっと抱えながら、私自身は働いているにもかかわらず本を必死で読んできた経験があるわけで、「働いていると本が読めなくなる」現象に対して理解を示しつつもそれを苦々しく思っている次第である。

 先に断っておくが、私は三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社)をまだ読んでいない。書店で手にとってもすぐに書棚に戻している。私自身が忙しい中で読む必要がない本として扱っているからである。以下では働きながら本を読む方法についても書こうと思うが、その際に重要なことは、「すべての本を読むことはできない」という前提下では、「今興味があって読む本を取捨選択する」ことであり、それは裏を返せば「今興味のない本は徹底的に読まない」と決断する必要があるという点である。

いかにして私は働きながら本を読めるようになったのか

 少なくとも私のブログは、私が大学院を出てから書き始めたものである。私が大学院を出て今の会社で2015年からフルタイムで働き始めてからは田上孝一編『権利の哲学入門』(社会評論社、2017年)に出す原稿「ヘーゲルの権利論」を書きながら働いていた。原稿を進めるために、出勤の電車でヘーゲル『法の哲学』(藤野渉・赤沢正敏訳、中央公論新社)を読んだり、退勤した後はコーヒーをすすりながら『法の哲学』の読解を進めていた。Macbook Airを常に携帯し、時間があればGoogleドキュメントに読解内容を入力していた。おそらくその時の生活スタイルが、現在まで働きながら本を読む基礎体力を形成したと思われる。

 その後も私は仕事が終わると必ずと言っていいほど書店に立ち寄って、「今日買う本」を決めていた。その日に買った本はしばしばTwitterに写真投稿していたし、今でも写真投稿している。書店は21時ぐらいまではやっているので、それまで何を読むのかひたすら書棚を吟味する。仕事帰りに本を買って読むことは私にとってルーティンワークの一つであった。

働いていなければ本を読めるようになるのか

 「働いていると本が読めない」という主張の背景にはいくつかの要素があるが、「時間がない」とか「体力がない」という理由で本が読めないことは私にも度々ある。だが、最も大きな問題は「読解力がない」ということである。「読解力がない」場合には、読書時間をどれほど伸ばしても本が読めないことに変わりはない。このとき「本が読めない」の理由が「本を読む時間がない」とか「本を読むだけの体力がない」ではなく、「本が読めていない」という本質的な理由に変わる。

 私は学生時代にほぼまったく働いていなかった(実家の手伝いをさせられたぐらい)が、「時間と体力があれば本が読めるわけではない」ということをヘーゲルを通じて経験した。ヘーゲル『精神現象学』(樫山欣四郎訳、平凡社ライブラリー)の予習をしても、ドイツ語を訳しても内容がサッパリわからない。「働いていると本が読めない」のではなく「働いていなくても本が読めない」のである。語学力ではなく、読解力が欠如していたら、どんなに時間があっても本は読めないのである。

 「本を読む時間がない」と「本を読むだけの体力がない」という場合には、基本的に解決策がある。一旦寝れば良いのだ。帰ってきて寝て夜中の二時に起きて読むとか、朝早く起きて読むとか、出勤の電車の中でウトウトしながら読むとか、いろんなやり方がある。疲れているならオーディオブックで寝ながら読むという方法が最もおすすめだ。KindeはスマホのTalkBack機能で音読してくれる。小説も聞き取りやすい。人間が吹き込んだ録音が良ければ、オーディオブックで『与謝野晶子訳 源氏物語』とか10数時間も再生してくれる。

読解力を高めることが根本的な解決

 働きながら本を読めるようにするには読解力を高める必要がある。だが、読解力は一朝一夕では伸びない。日頃の努力が必要不可欠である。ではどうしたらいいのか。

 おすすめはブログに読んだ感想を残すことである。一度で完璧な感想を書く必要はない。読んだ範囲や理解できた範囲で良いだろう。私など、読解できるように何度も挑戦し、挫折しながら読み進めている。最後まで読み通している本などほとんどないが、それでも小分けにして分解して理解を深めている。大きな問題は小分けにして分解することが大事である。これを繰り返すことで読解力を高めることができる。

「5分考えてわからない」ことはやめる

 ここまで書いても「そもそも時間も体力もない」という人が大半だろう。もしあなたがたった5分の時間も作れないのなら仕方がない。だが、私に言わせれば、本を読むのは5分あれば十分だ。このことは、私は孫正義から学んだ(というのは、あんまり公言したくはないが、私は決してお世辞でこう述べているのではなく、実際にそうである)。孫正義が学生時代に時間がない中で発明する時間を「毎日5分」と決めていたという逸話がある。この「5分」ルールとでもいうべき手法を私も取り入れており、これによってスプリントアジャイル開発手法の一つ)のごとくに「働きながら本を読んで書く」ことができるようになった。私にできてあなたにできないことはないと思うので、ぜひ試してみてもらいたい。