まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

読書前ノート(3)

目次

読書前ノート(承前)

前田鎌利『課長2.0 リモートワーク時代の新しいマネージャーの思考法』(ダイヤモンド社、2021年)

 前田鎌利さんはソフトバンクのOBであり、本書ではその頃の経験に基づいてマネージャーのノウハウが語られている。東浩紀『一般意志2.0』を彷彿させるタイトルだが、『課長2.0』というこのタイトルは、担当編集者が名付けたものらしい。「〇〇2.0」というのは要するにソフトウェアのバージョンアップを模した概念であり、DX化の流れの中ではあらゆる概念が外面的には幾度もアップデートされるであろう。しかしながら、本書を読んでいくと、リモートワークによって変化したのはコミュニケーションの技巧的な部分に過ぎず、「課長」ないしマネージャーの内面性、本質はむしろほとんどアップデートされていないことがわかる。だが、そうであるがゆえに本書はマネージャーの本質を抉り出すことに成功したと言えるかもしれない。

 ところで本書とは趣が異なるが、リモートワーク時代の新しいマネージャーの葛藤を表現したアニメに『86―エイティシックス―』(監督:石井俊匡、原作:安里アサト、2021年)がある。原作はライトノベルであり内容もフィクションだが、その設定は現代社会に則って解読することができる。ヴラディレーナ・ミリーゼ(指揮管制官〈ハンドラー〉)は、いわばリモート時代のマネージャーとして、平和な本国から戦場にリモートで指示を出している。戦場で戦うのは、出身や肌の色から差別された、国民とは見做されていない存在、「86(エイティシックス)」である。「86(エイティシックス)」は戦場で5年戦い抜けば晴れて自由になるという契約の下で戦っているが、この「86(エイティシックス)」は5年戦い抜いても自由にはさせてもらえずに戦死するよう本国に仕組まれている。私見では、「86(エイティシックス)」は非正規雇用の人々を表象していると思われる。というのも、非正規雇用の人々は、5年雇用されたのちに雇用期間が無期限転換される権利を有するはずだが、無期限転換を阻止するために雇用主は5年経過の直前に雇用契約を更新しないようにすることがしばしば見受けられるからである(念の為書いておくと、すべての会社や団体でそのようなことが行われているわけではないが、一部の組織では見受けられるという意味である)。一方、本国からリモートで指示をだすミリーゼは、エリートコースに乗っていて戦場で死ぬ運命にはない。ミリーゼは、我々の現実世界で言えば、東京で勤務する総合職の若手マネージャーのようなものである。ミリーゼと「86(エイティシックス)」との間には社会的格差がある。そうした社会的格差のもとに成り立っているのが、リモートワーク時代の新しいマネージャーなのであることも忘れてはならない。

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