目次
スピノザ『エチカ』(承前)
第一部 神について(承前)
定理
以上の「定義」と「公理」を踏まえた上で「定理 Propositio 」が述べられる.第一部では三十六個の「定理」が出てくる.
アプリオリな「実体」
定理一
実体は本性上,実体の変状に先立つ.
証明
定義三および五から明白である.
(Spinoza1677: 3,畠中訳(上)39頁)
スピノザはこの【定理一の証明】で【定義三】と【定義五】を参照すれば明らかだとと一蹴しているが,はたしてそうであろうか.念のため【定義三】と【定義五】を確認しておこう.
【定義三】
実体とは,それ自身のうちに在りかつそれ自身によって考えられるもの,すなわちその概念を形成するのに他のものの概念を必要としないもの,と私は解する.
【定義五】
様態とは,実体の変状,すなわち他のもののうちに在りかつ他のものによって考えられるもの,と私は解する.
(Spinoza1677: 1,畠中訳(上)37頁,下線引用者)
【公理一】にあるように,〈存在〉には〈自己自身のうちにある在り方〉と〈他者のうちにある在り方〉という二つの様式があるが,ちょうど前者が【定義三】にある「実体」の在り方に対応し,後者は「実体の変状」の在り方に対応する.「実体の変状」とはいわば「実体」の派生形態, あるいは変化形態である.だが実体が他のもののうちにあること(つまり【定義五】「実体の変状」)は,勝義の「実体」の本性(【定義三】)には含まれていない.
反対に「実体は本性上その変状に先立つ」のではないと考えてみたらどうだろうか.つまり実体の変状が実体に先立つとした場合,実体は実体の変状(つまり「他のもの」のうちにある在り方)によって成り立つことになってしまい,そうすると実体は「それ自身のうちに在りかつそれ自身によって考えられるもの」(【定義三】)という実体の本性と矛盾してしまうことになる.
よって「実体は本性上その変状に先立つ」と考えられることになる.